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東アジア・太平洋地域における債務の透明性と強靱性の強化

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東アジア・太平洋地域における債務の透明性と強靱性の強化 インダーミット・ギル世界銀行グループ・チーフエコノミスト兼上級副総裁。日本で開催された「透明性と持続可能性の向上のための対外債務統計強化ワークショップ」にて。 写真:世界銀行グループ

世界はコロナ危機とその余波から回復を続けていますが、各国は予期せぬ新たな課題に直面しています。債務水準の上昇、長引くインフレ、成長見通しの軟化により、財政状況が著しく悪化しているのです。その結果、多くの国は、保健、教育、環境といった重要分野の予算縮小を余儀なくされています。こうした状況の下、正確で最新かつ包括的な債務データの重要性がこれまで以上に高まっています。

こうした状況を踏まえ、世界銀行債務統計チーム経済開発研究所は、ワークショップ「透明性と持続可能性の向上のための対外債務統計の強化」を開催しました。国連アジア太平洋統計研究所が日本政府による寛大な支援を受けて4月に千葉県で主催したワークショップには、東アジア・太平洋全域から債務管理の専門家や各国の中央銀行担当者など幅広い関係者が集まりました。

ワークショップは5日間にわたって開催され、世界銀行の債務国報告システム(DRS)と債務データ収集・編集の国際基準を活用し、変化する債務エコシステムに関する専門的な分析とともに戦略的対話が進められました。参加者は、債務の持続可能性を損ない債務再編努力を困難にする可能性のある債務・GDPギャップやデータ上の不一致について、また各国独自の債務報告プロセスの透明性と強靱性の強化の必要性について改めて確認しました。

共同作業による包括的な学習体験 

Image 債務管理の課題、アイデア、新しいソリューションについて話し合う参加者。/ 写真:世界銀行グループ

 

体験型のインタラクティブなこのプログラムは、専門家による講義、参加者が協力して進める学習、現実世界のシミュレーションを組み合わせたもので、主に次の内容で構成されています。

  • 国際国民経済計算・国際収支システムの最新の基準に沿った、主要債務の定義、分類、概念。
  • 債券と債権者の新しい分類など、再設計された世界銀行債務者報告システムの実用性。
  • 国有企業による無保証借入を含む偶発債務の特定と管理。
  • 債務の持続可能性の枠組みとツールの紹介。
  • 債務返済に支障をきたしている、またはその危険のある国を支援する世界銀行の政策と措置。
  • データの品質と使いやすさの向上を図る債務の記録・報告基準。

ワークショップの冒頭、インダーミット・ギル世界銀行グループ・チーフ・エコノミスト兼上級副総裁が基調講演を行い、急速に変化する今日の経済環境において、債務の持続可能性と透明性の差し迫った重要性を強調しました。講演では、これらの指針が単に技術的な要件であるだけではなく、財政説明責任の強化と、借入と長期的な開発目標との整合性の徹底の観点から、健全な経済管理の基盤となることが強調されました。

プログラムの一環として、債務の透明性アジェンダに関するセッションもあり、この重要なイニシアチブの推進にあたり主要なステークホルダーが担う役割について説明が行われました。日本は債務の透明性の提唱者であり、財務省の津田尊弘国際局開発機関課長が、この分野における日本のコミットメントを、国際金融機関との関わりを中心に紹介しました。日本は、G7、G20、パリクラブの活発なメンバーであり、二国間債権者による債務データ開示の拡大を支持し、低・中所得国を中心に債務管理プログラムを支援してきました。

Image ワークショップで講演する津田尊弘国際局開発機関課長/ 写真:世界銀行グループ

 

ワークショップの締めくくりとして将来的な持続可能な金融に関するセッションが行われ、世界銀行の持続可能な開発金融政策(SDFP)および変化を続ける世界の債務状況が取り上げられました。

 

知識の共有から実質的なインパクトまで

Image グループ演習中のワークショップ参加者。/ 写真:世界銀行グループ

 

ワークショップの特徴は、現地の状況に応じた調整が特に重視されたことです。世界銀行の債務統計の専門家が各モジュールを担当し、各国での事例をケーススタディとして紹介した上で、国際基準に沿った債務統計の定義と分類について説明しました。また、IMF、英連邦事務局、国連貿易開発会議の債務統計と債務制度の専門家が、知識を集約した国際基準を紹介し、債務管理の問題について話しました。

債務管理当局、中央銀行、債務統計の専門家がグループディスカッションやシミュレーションを行い、現地の状況に見合った新しい方法論をいかにして適用するかについて知識や見解を話し合いました。互いに学び合うという精神の下、課題、アイデア、新しい解決策についての活発な議論が行われました。

またワークショップでは、実践的な応用にも重点を置き、理論や知識にとどまることなく、日々の債務管理や報告プロセスにすぐに取り入れられるよう、テンプレート、クイズ、その他のリソースなどの有用なツールが参加者に提供されました。

 

債務の透明性向上に向けた各国とのパートナーシップ

ワークショップは、各国と連携し、今日の複雑な債務状況を乗り切るために必要なツールと知識の提供により各国のエンパワーメントを図るという強い決意に基づいています。我々は、人材に投資し新しいつながりやアイデアを活用することで、各国が経済の強靱性を内側から強化できるよう支援しています。

今回の取組みは始まりにすぎず、我々はこれからも、債務の透明性と持続可能性の向上を図る国々への支援を強化していきます。今後は新しい地域でのワークショップの開催や、さらなる協力の機会も予定されていますので、どうぞご期待ください。


Evis Rucaj

Program Manager for the Debt and Financial Statistics, Development Data Group, World Bank

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