毎年冬になると、札幌を訪れる人々は、公共の広場が用途によって姿を変えていく様子を目にします。
冬のはじまりである12月には、広場はこの地域に住む人々のための場所です。高齢者がベンチで談笑し、露店が並び、子どもたちが学校へ向かう近道として横切ります。ところが2月になると、同じ広場が札幌雪まつりの中心となり、世界中から訪れる観光客を迎え入れます。
この変化は、重要な原則を示しています。最もレジリエントな観光地とは、訪れるのに魅力的である以前に、住民にとって心地よく暮らせる場所であるということです。
日本から学ぶ:持続的な観光産業を築くために
レジリエントな観光の重要性を踏まえ、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、2025年12月、「観光と雇用を支える都市の役割」をテーマに、都市開発実務者向け対話型研修(TDD)を開催しました。
本研修には、アルバニア、アルゼンチン、ドミニカ共和国、インドネシア、ケニア、モザンビーク、ネパール、パキスタン、スリランカの政府関係者が一堂に会し、海外および日本の観光分野を牽引する実務者・専門家や世界銀行グループの観光の専門家、そして参加者同士から学びを得ました。
参加者は、京都の歴史的な街並みの保全や、札幌・小樽の再生の事例を通じて、都市が自己の資産を活かし、観光の魅力を多様化する方法について考えました。また、観光が地域の暮らしの質の向上に貢献し得るにも関わらず、その可能性が十分に活かされていない地域で、観光を通じた持続的な成長のあり方を探りました。さらに、訪問者が急増する観光地において、暮らしやすさを守りながら観光の拡大がもたらす課題にどう対応するかについても議論しました。
本研修の3つの教訓をご紹介します。
1. 住民から始める:暮らしやすさを最優先の指針に
住民にとって快適な場所でなければ、訪問者にとっても良い観光地にはなりません。交通、エネルギー、廃棄物管理、公共空間、デジタル接続、環境の質といったインフラは、観光の前提条件です。しかし、こうした改善が観光客だけのために行われると、住民の不満を招き、地域の信頼を損ないます。
研修では、日本の都市が実践する「デュアルユース(多目的利用)」の考え方を確認しました。札幌では、祭りを開催する通りや広場が、日常生活の場としても使われています。観光のための投資が、より安全な歩道、明るい照明、利用しやすい公共交通、清潔な公園といった、住民の生活の質の向上にもつながっているのです。
この原則は世界共通です。ケニアのモンバサにあるヘリテージ・トレイルは、住民の日常の通勤路になり得ます。アルバニアのギロカストラで整備された歩道や街路は、住民の暮らしを楽にし、新たなビジネスや観光の機会を生み出しています。すべての観光施策は、地域コミュニティの暮らしやすさを高めるものであるべきです。
2. 観光の恩恵を地域・企業・人々へ
観光は特定の場所や季節に集中しがちで、その結果、人気スポットの過度な混雑を招くだけでなく、観光の利益が一部の地域や事業者に偏ってしまうことがあります。
観光のレジリエンスを高めるためには、利益を分散させる必要があります。京都の「分散化」戦略は、有名観光地以外の地域へ来訪者を誘導し、文化遺産を守りながら地域経済を活性化しています。第二、第三の都市を魅力的な観光地として育てることは、人気観光地の混雑を和らげると同時に、これまで十分に観光の恩恵を受けてこなかった地域に新たな収入や雇用の機会をもたらします。さらに、適切に管理された季節性は、地域が回復するための休息期間をもたらし、レジリエンスを高めます。
経済面では、観光は中小企業によって支えられていますが、資金や市場へのアクセスに課題を抱えることが少なくありません。こうした課題に対応するため、金融支援策やビジネス開発サービス、市場との連携強化など、的を絞った支援を通じて企業のレジリエンスを高めることが重要です。
人材育成も欠かせません。研修では、パキスタンでのホスピタリティ研修が若者により良い雇用機会を提供している事例が紹介されました。語学力、サービスの質、起業家精神、マネジメント能力への投資は、インフラ投資の効果を高め、経済ショックへの耐性を強化します。
3. 学び続ける制度をつくる
レジリエントな観光の実現のためには、状況を把握し、声に耳を傾け、必要に応じて軌道修正できる仕組みが欠かせません。
こうした「フィードバックの仕組み」は、市民参加や意識調査の形をとることもあります。たとえばスペインのバルセロナでは、住民意識調査を通じて観光に対する受け止め方を継続的に把握しています。また京都のように、リアルタイムデータを収集するデジタル管理システムを導入し、住民と観光客双方のニーズにより適切に対応している都市もあります。
行政や観光を担う組織が状況を把握し、改善を重ねていくことで、観光地は一方的に資源を消費する存在になることを避けられます。地域固有の資産を守り、環境を適切に管理し、地域との信頼関係を維持することができるのです。それこそが、長期的な競争力の基盤となります。
レジリエンスは、一つひとつの選択の蓄積
2月17日の世界観光レジリエンスの日にあたり、私たちはこれまで数々の困難を乗り越えてきた観光セクターの強さを改めて感じます。しかし、レジリエンスは自然に生まれるものではありません。日々の選択の積み重ね、プロジェクト一つひとつの判断によって築かれていくものです。
札幌の公共広場が、ある月は住民の日常を支え、次の月は世界からの来訪者を迎える場となるように、レジリエントな観光地は、すべての人のために機能します。
住民を第一に考え、観光の恩恵を広く行き渡らせ、学び続ける制度を築くとき、観光は単に危機を乗り越える手段にとどまりません。世代を超えて続く共有の繁栄を生み出す原動力となるのです。
「観光と雇用のための都市」をテーマとした都市開発実務者向け対話型研修(TDD)の実施報告を、ビデオや写真とともに紹介したウェブストーリーもぜひご覧ください。
「観光と雇用のための都市」に関する都市開発実務者向け対話型研修(TDD)実施報告:観光地の発展を通じた地域全体の豊かさの実現
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