保健医療システムは世界のどこにおいても、より少ない資源でより多くを達成することが求められています。高齢化が進み、慢性疾患が増加する中、専門的なケアへの需要は専門人材の供給を上回るペースで高まっています。そして今もなお、住んでいる場所次第では、必要なときに質の高いケアを受けられない患者が数多く存在するのが現実です。
世界はまた、深刻な雇用危機にも直面しています。今後10~15年間に、途上国では12億人の若者が生産年齢に達する一方、現在のペースで行くと、新たに創出される雇用は約4億人分にとどまる見通しです。
保健医療は、この二つの課題に同時に対応できる分野の一つです。医療へのアクセスを拡大すると同時に、生産的で意義のある雇用を生み出すことができます。世界銀行グループは、2030年までに15億人が、質の高い保健医療サービスを手頃な価格で利用できるよう支援することを表明しています。これまでに5億7,500万人以上にサービスを届け、数多くの雇用を生み出してきました。さらに、世界銀行グループ内部で進める効率化改革により、今後は成果をより迅速に拡大していける見込みです。
デジタル技術を活用することで、より多くの人に保健医療を届けることができます。そのためには、適切な設計と責任あるガバナンスに加え、より広範な保健医療システム改革の一環として位置付けることが重要です。また、デジタル技術は、高度な専門職からエントリーレベルの職種まで幅広い雇用を生み出し、地域社会全体に経済機会を広げる可能性もあります。
サウジアラビアのSEHAバーチャル病院は、その好例です。国家改革戦略「ビジョン2030」の一環として設立されたSEHAは、高度な医学的専門知識と最新のデジタル技術を組み合わせ、国内各地に遠隔医療サービスを提供しています。240以上の病院を支援し、年間59万7,000人以上に医療を提供する、世界最大のバーチャル医療機関です。トルコとシリアで地震が発生した際には、サウジ赤新月社による被災者への遠隔医療サービスの提供も支援しました。
世界銀行がイエメンで支援する緊急人的資本プロジェクトも、危機的状況におけるデジタルヘルスの可能性を示しています。約4,800の医療施設に地区保健情報システムを導入し、第三者によるモニタリングを活用することで、2021年から2023年にかけて1,100万人以上にサービスを提供しました。デジタル技術は、サービス提供の拡大にとどまらず、政府の能力が制約される中でも説明責任の強化に貢献できることを示しています。
SEHAの重要性は、その規模だけにあるのではありません。より重要なのは、デジタル技術によって患者へのケアを改善できることを示している点です。バーチャル集中治療、専門医による診療、在宅ケアなどを通じて、医学的専門知識を病院の外にまで届けることができます。さらに、その過程で多くの雇用が生まれ、より健康で生産的かつ強靱な地域社会の実現にもつながります。
SEHAのようなソリューションを各国が構築し、その規模を拡大できるよう支援することは、世界銀行グループのアプローチの中核を成しています。リヤドのグローバル・ナレッジ・ハブでは、データをもとに、各国が実際に活用できる知見をまとめています。そこから得られる教訓の一つは明確です。質の高い保健医療には、確かな雇用戦略が欠かせません。そこで世界銀行グループは、雇用創出に必要な環境を整えられるよう各国を支援するため、物的・人的・デジタルの基盤となるインフラの整備、明確な政策と規制に支えられた事業環境の構築、そして大規模な民間資本の動員を進めています。
この戦略は、域内各国ですでに実行に移されています。世界銀行グループは、各国が公衆衛生の改善と雇用創出の双方につながるシステムを構築できるよう支援しています。チュニジアでは、遠隔医療や疾病監視の強化、保健医療システムのガバナンス向上を推進しています。ヨルダンでは、電子カルテや相互運用可能なシステム、遠隔医療の導入、保健医療データのガバナンス強化を通じて、デジタルヘルスへの移行を支援しています。
ただし、明確にしておくべき点があります。バーチャル医療は、より抜本的な保健医療改革への近道でもなければ、熟練した医療従事者や制度、患者からの信頼に取って代わるものでもありません。世界銀行グループは各国とともに、デジタル医療に伴う法律や規制上の課題への対応を進めており、その取組みを透明性のある形で進めることで、他国もそこから学べるようにしています。デジタルヘルスの取組みは、目に見えやすく、先進的で、政治的にも注目を集めやすいため、関心を集めがちです。しかし、目立つことと価値があることは同じではありません。各国は、どのサービスが臨床的に有効なのか、また、どのような研修が医療従事者による患者へのより良いケアにつながるのかを見極める必要があります。
答えは国によって異なります。ある国と協力して開発したデジタルヘルスのモデルを、別の国にそのまま当てはめることはできません。しかし、そのモデルを評価し、それぞれの国の状況に合わせて調整した上で応用することは可能です。ここにこそ開発の意義があります。すでに出来上がったひな型を単に他国に持ち込むのではなく、各国が互いの経験からより迅速に学び、人々の生活を向上させる保健医療と雇用を生み出せるよう支援することが重要です。
世界銀行グループは、より多くの人々が健康で尊厳のある、生産的な生活を送れるよう、保健医療の改善につながるソリューションの規模拡大を迅速に進めています。デジタル技術は、この目標を実現するための重要な手段となり得ます。ただし、その力を十分に発揮するには、各国の雇用戦略による後押しが不可欠です。課題は大きい一方で、機会もまた大きいのです。
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