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災害時、誰に支援が届くのか?――より的確な社会的保護制度の実現に向けて

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災害時、誰に支援が届くのか?――より的確な社会的保護制度の実現に向けて 世帯の貧困を防ぐことが目標なら、支援の広さよりも深さが重要である。 | © Shutterstock.com

洪水、サイクロン、地震といった災害の発生直後、政府や援助機関は極めて難しい決断を迫られます。限られた資源と、支援を必要とする何百万人もの人々を前に「誰に、どれだけの支援を行うべきか」という判断です。その判断を誤れば、現金給付は幅広く行き渡ったとしても、それぞれの経済的ニーズを考慮した支援とはならず効果は限定的なものとなってしまいます。一方で、適切な判断がなされれば、同じ予算で数百万人もの人々を貧困から守ることができるのです。


社会的保護、災害リスク管理、気候変動への適応を組み合わせた「適応的社会保護プログラム(Adaptive social protection programs)」は、こうした困難な選択に直面した場合に対応できるよう設計されています。今回新たに、このプログラムの有効性について、初めて世界規模での体系的な検証が行われました。この研究で示されたのは、世帯がさらに深刻な貧困に陥るのを防ぐことが支援の最大の目的である場合、最貧困層に対する効果的な支援を優先するプログラムの方が、同じ予算を全員に広く薄く分配するよりも、高い効果を発揮する傾向があるという分析結果です。

課題の深刻さ

この調査で算出された数字は驚くべきものです。131カ国を対象としたシミュレーションによると、平均的な1年間に、災害によって1,270万人が極度の貧困状態に陥っていることが示されたのです。また、基本的な生活ニーズを満たすための地域ごとの費用を反映した各国の貧困基準を下回る人々が、さらに1,290万人存在すると推計されています。しかし、年間平均値だけでは実態を見誤るおそれがあります。例えば、パキスタンで100年に一度の壊滅的な洪水が発生した場合、たった一度の災害で960万人が極度の貧困に陥る可能性があります。また、災害による影響は貧困ラインを下回る人の数だけでは捉えきれません。貧困ラインを下回らなくても、生活の質が極端に悪化する人々はさらに数百万人に上るからです。「1ドル」の消費価値は所得が少ない人ほど大きいため、同じ額の損失であっても、貧しい世帯ほど生活への打撃は深刻になります。災害による被害が世界全体のウェルビーイング(幸福・生活の質)に及ぼす影響は年間1.14兆ドルのGDP減少に相当すると推計され、その被害は甚大で、負担は不均衡に分布していることが分かります。


図1: 災害による年間平均の貧困リスク(人口比)。

オレンジは「極度の貧困(Extreme)」、青は「相対的貧困(Societal)」を示す。

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「広さよりも深さ」— しかし、それほど単純ではない

本研究では、適応的社会保護の仕組みによってこれらのリスクにどのように対処するのが最も効果的かを理解するため、体系的かつ世界規模のアプローチを採用し、異なる介入策の効果をシミュレーションにより分析しています。検証した介入策は4種類で、1)災害後の一律かつ定額の現金給付、2)被害規模に応じた現金給付、3)災害に対する脆弱性の軽減・災害に晒される状況の改善、4)所得源の多様化です。

この研究で得られた中心的な知見は明確で、「広さよりも深さが重要」ということです。つまり、ウェルビーイングへの効果という観点では、より多くの人々に広く薄く支援を行き渡らせるプログラムよりも、より少数の低所得世帯に対して十分な水準の支援を届けるプログラムの方が、優れた効果を上げています。災害後の基本的な生活ニーズを満たすには不十分な金額の給付は、多くの人々に届いたとしても、その保護効果は限定的です。この点は、実際の事例からも裏付けられています。パキスタンでは、単に支援対象者を拡大するのではなく、現金給付額を2倍に増やしたことで、子どもと母親の栄養状態が大きく改善しました。対照的に、2015年から2018年にかけてヨルダンのシリア難民に対して実施された現金給付では、生計の改善をもたらすには金額が低すぎ、支援規模を過小に設定することの弊害が示されました。

本研究は、支援の対象を最貧困層だけに限定すべきではないことも明らかにしています。貧困状態にない世帯もまた災害による重大なリスクに直面しており、適切に設計された適応的社会保護の仕組みはあらゆる所得層に恩恵をもたらす可能性があります。この研究は、より大きく持続可能な成果を得るためには、災害発生後の対応と被害発生前の予防策を一体的に進めることが重要であると指摘します。所得源の多様化、強靭な住宅や防災インフラの整備は、貧困への転落を未然に防ぎ、そして、保険や災害後の支援制度は被災者が災害から立ち直るのを支えます。
 

政策立案者に向けた3つの示唆

政策立案者、なかでも低所得国の政策立案者に求められる対応は、実行可能であるだけでなく、緊急を要するものです。

  1. 給付額は、支援対象の範囲と同じくらい重要である。給付水準を変えないままプログラムの対象範囲だけを広げることは、単純に「中立的な選択」とは言えません。それによって、災害やショックから回復するために十分な支援を受けられる人が少なくなる可能性があるからです。政策立案者は、世帯が基本的な消費を維持するために実際に必要とする水準を踏まえて給付額を設定すること、限られた資源を薄く広く配分しようとする政治的な圧力に流されないことが重要です。低所得世帯を優先することは、公平性の観点から重要であるだけでなく、最大の貧困削減効果が期待できます。

  2. 低所得国は、特有の課題に直面している。すなわち、人口に占める災害への脆弱な人々の割合が高い一方で、何らかの公的なセーフティネットによって支援を受けている人々の割合は低いということです。このため、低所得国では高所得国と比べて支援対象範囲の拡大がより緊急性の高い課題となっています。ただし、支援の規模や手厚さを確保することも依然として重要です。

  3. 予防と対応は一体的に進めなければならない。災害発生後の現金給付だけに依存するプログラムでは、脆弱性を低減するための事前投資が持つ可能性を十分に活かすことができません。実例として、フィリピンでは大型台風ヨランダの後、災害対応に「より良い復興(build back better)」の考え方を取り入れたことで、単なる事後的な給付プログラムでは実現できなかった長期的な相乗効果がもたらされました。
     

今後に向けて

本研究は、貧困削減を目指すプログラムは、多くの人々に少額の支援を広く行き渡らせるよりも、より少数の人々に十分な支援を提供する方が、より大きな成果を上げることを明らかにしました。効果を発揮するプログラムは、真っ先に最貧困層に届き、1ドルあたりの効果を最大化するものです。また、優れた対策プログラムは、災害発生時の対応にとどまらず、将来起こり得るショックに対するレジリエンス(強靱性)を高めるという包括的なアプローチを採用しています。すでに災害は、世界全体で毎年1.14兆ドル相当のウェルビーイングの損失をもたらしており、気候変動によってその影響はさらに深刻化すると予想されます。こうした事実を裏付ける証拠はすでに存在しています。今こそ、各国政府はその知見に基づき、行動を起こす必要があります。


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