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災害への備え:先人のメッセージが伝えることは?

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「奇跡の一本松」:2011年の大津波に耐えた樹齢250年といわれる松の木。19,000 人の犠牲者を追悼するモニュメントとして保存されている。(写真:ウィキペディア・コモンズ

災害リスク管理というと、地域社会が将来起こりうる災害リスクに備えるための最先端技術に目を向けがちである。そうした先端技術はもちろん重要であるが先人たちが残した洞察力あふれるメッセージもまた災害を未然に防ぐための大いなる手助けとなることに私は着目したい。

先人の知恵は、人々を災害から守る方法(既存リスクの低減)と、人々を災害による被害から遠ざける方法(新規リスクの回避)を教えてくれている。私はつい最近、アルメニア共和国、キルギス共和国、タジキスタン共和国の政府代表団とともに日本を訪れた。災害リスク管理に焦点を当てた視察を行い、災害の経験を明確な教訓として次世代へ受け継いでいく日本の文化を学ぶためである。

日本では、いたるところに過去の自然災害の記憶が残されている。 そのひとつが災害の多い岩手県沿岸の小さな集落の姉吉地区である。そこは、明治三陸大津波(1896年)により60人以上が死亡、生存者は2名のみという被害を受けた。さらに、昭和三陸津波(1933年)ではわずか4人の生存者を残し100人以上が犠牲になった。40年も経たないうちに2度の大津波に見舞われ、住民たちは集落を高台に移して再建した。そしてその教訓を小さな石碑に刻み、その教えを守り続けてきた。石碑には次のように書かれている。
 
「此処より下に家を建てるな」

石碑はいまもなお犠牲者を悼む記念碑としてそこに立ち、命を守る教訓を次の世代へと伝えている。2011年の東日本大震災で発生した巨大津波は、姉吉地区の海岸の丘陵を駆け上がり、この石碑の90m手前で止まった。住宅や建物の被害が一軒もなかったのは、住民たちがこの石碑の教えを守り続けていたからである。
 
日本では、こうした先人の教えを記念碑に刻んだり、災害の経験を示唆する漢字を地名に当てたりしているが、海外では災害のリスクを口伝えに伝承している国もある。
 
その一例がインドネシアである。2004年のインド洋地震で発生した巨大津波の被害状況を見てみると興味深いことがわかる。震源地から250キロ離れたバンダ・アチェ(人口30万人)の犠牲者の数は推定167,000人で最多であった。他方、震源地からわずか40キロしか離れていないシムルー島(住民78,000人)では、地震発生後10分も経たないうちに津波が押し寄せたにもかかわらず、犠牲者はわずか7人 だった。
 
そこには理由がある。親から子へと歌い継がれてきたこの島の子守歌が関係しているといわれている。その歌には次のような一節がある。
 
「強い揺れが起き、海面が下がったら、すぐに高台に逃げるんだ」
 
この子守歌はシムルー島民が1907年の大津波を経験した後に歌われるようになったという。子供を静かに寝かし付けるために歌う子守歌としては、この警告めいた歌詞は似つかわしくないように思える。しかし、この歌の教えがこれほどの住民の命を守ったかと考えると、この子守歌は大切なメッセージを子供たちに教え込むためのまさに愛と思いやりに満ちた思慮深い歌であると言える。

話を日本に戻そう。1995年の阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた兵庫県では、震災の経験を記録し、文書化し、記憶に留めるための大々的な取り組みを行っている。将来の世代に適切な教訓を伝え、悲惨な被害に二度と遭わないようにするためである。2015年10月に開催された「中央アジア地震リスク軽減フォーラム」で、兵庫県知事は県政の方針として4つの基本コンセプトを強調した。それが、この震災を「忘れない」、「伝える」、「活かす」、「備える」である。兵庫県は、巨大地震の発生リスクへの関心を高めるための一つの方策として、「人と防災未来センター」を建設した。
 
また国家レベルとして、日本政府は「(災害の)一日前プロジェクト」を推進している。災害の経験者に「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」と問いかけ、寄せられた回答を物語にまとめ、それを広める活動である。その目的は、災害経験者の教訓を多くの場で共有し、災害の軽減と未然防止のための議論や取り組みに活用してもらうことにある。
 
世界銀行では、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の下部組織である東京防災ハブが途上国における「日本-世界銀行防災共同プログラム」を通して、災害リスク管理における日本の経験や、災害の教訓を後世に伝える日本の仕組みを広める活動を行っている。
 
この機会にご自分の周囲を見渡してみてはいかがだろうか。「災害から身を守るために、先人たちはどのようなメッセージを残してくれているのか」と。

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