ブログチャンネル Digital Transformation

衛星技術を使った気候関連災害対策-アフリカの農家を守るために

このページの言語:
Image
エチオピア:トマトを仕分けする農民。 写真撮影:Stephan Bachenheimer / 世界銀行


農業では、ときに予測が難しい局面がある。特に気候関連災害の影響を受けやすい地域の貧しい農民の場合、この傾向が高くなる。人口約10億人を抱えるサブサハラ・アフリカ[1] では、農業が今も雇用の約64%を占めている。その上、耕作地の95%以上は、灌漑設備の恩恵を受けることができず[2]、雨水に依存する天水農業が行われている。そのため、干ばつなど気候関連の災害により、アフリカ全土で作物の損失や家畜の死が頻繁に発生し、多くの人々が被害を蒙っている。さらに、気候変動が状況を悪化させると予想されている。

しかし、農業生産を宇宙からモニターすることで、収穫高を予測し、自然災害の発生直後、または発生前に予防的行動を起こすことができればどうだろう。早い時点で収穫状況を予測することで、社会的セーフティネットや保険を用いて農家に力を与えることができればどうだろう。技術の進歩のおかげで、こうしたことが現実のものとなりつつある。浸透すれば、サブサハラ・アフリカ諸国における食糧安全保障の改善に貢献できる。  
 
こうした技術の一つであるリモート・センシングと、それがいかに経済的に農民を保護し得るかが、2015年11月17-20日にアディスアベバ で開かれる「リスクとファイナンスの理解に向けて(URf)」会議 にて取り上げられる予定だ。
 
サブサハラ・アフリカで農業生産に最も影響をもたらす自然災害は、水文気象関連の災害、つまり洪水と干ばつである。多くのアフリカ諸国は、洪水や干ばつが発生した後で、食糧や資金を提供し、農民には家畜を補充するなどの対策に乗り出すのが普通だ。こうした被災後の対応は遅々として進まない上、コストもかかり、依存の文化をもたらしがちである。 しかも、依存と言うこの循環パターンでは、往々にして被災国ではなく国際社会の資金が生み出している。
 
衛星を使って収集した現地の情報やデータを使うことにより、援助の焦点が、災害が起こってから(「被災後」)から、事前の対応計画(「事前」)に移りつつある。これにより、対応が大幅に効率化される。衛星を使えば、長時間かかる現場でのニーズ・アセスメントをすることなく、現在の状況について当面の予測を提供することができるからだ。衛星が干ばつを検知すれば直ちに、対応策の実施に入ることができるので、助けを最も必要とする人に迅速に対応することが可能だ。
 
そうした初期の対応メカニズムに含まれることが多いのは、農業生産者が自ら保険に加入したり、政府が農家に保険をかけたりする農業保険制度である。衛星で収集したデータから、あらかじめ合意済みの基準(例えば、モデル化された作物損失の一定の度合い)に達したとわかれば、被保険者に保険金が支払われると言う仕組みだ。社会的セーフティネットの活用も進んでいる。例えば、エチオピアの「農業生産セーフティネット・プログラム」は、通常は貧困世帯のための一般的な現金給付プログラムだが、2011年の干ばつの際には、衛星技術を駆使して干ばつの状況を短期間で迅速に評価した結果、被災後2カ月以内に650万人から960万人にまで対象が拡大された。
 
衛星が収集する数多くのデータは、どこでどんな行動が必要とされているかを特定するのに使うことができる。例えば、土壌水分量、降雨量、植物の発育具合などをモニターすることが可能だ。十分な長さの期間にわたって収集されたデータであれば、モデル化することにより、あるシーズンの穀物生産高や草地の状況を予測するのに使うことができる。
 
例えば、ケニア北部で開発された指標ベースの家畜保険プログラムでは、衛星が地上の草地の「健全性」を測定する。そうして得られたデータを使えば、家畜の放牧にどれほどの牧草地が使えるかを予測することができる。干ばつが発生した場合には、衛星データから、ごくわずかの牧草地しか残っていないことがわかり、家畜保険に入っている牧畜民は保険金を受け取り、その保険金を使って家畜を保護することができる。
 
さらに別の例として、マリとウガンダの「SUMアフリカ」という、METEOSAT衛星のデータを使ったミクロ農業用保険制度がある。このプログラムでは、過去のデータを基に自作農の収穫高を予測する。収穫高が一定レベル以下になると予測されると、保険に加入していた農家には保険金が支払われる。これにより農家は、時間のかかる損害アセスメントの結果を待つことなく、また、政府による人道支援をあてどもなく待つまでもなく、ずっと早い時点で資金援助を受けることができる。
 
URfは、世界銀行グループ、 防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、欧州連合、アフリカ連合委員会をはじめとするパートナーが共同で立ち上げたもので、上記はじめ、さまざまな防災用保険を実施してきた経験から得られた教訓を紹介するための場を提供し、自然災害から影響を受けやすいアフリカ諸国のオピニオン・リーダー間の協力を促進する。URfの目標は、社会的保護制度や指標ベースの保険をいかに拡大するかについて、行動に繋がる議論を促進するためのプラットフォームとして機能することである。参加する国々が、より確実に資金を確保することで、将来の計画を練り、農作物を守り、繁栄していけるように活動を加速させていく。 
 
 
関連リンク
G4AW General Site:
G4AW Mali
Index Based Livestock Insurance (IBLI):
IFAD WRM Project
Kenya PSNP - LEAP

 
[1] 南アフリカを除く。
[2] 「世界開発報告2008:開発のための農業(Agriculture for Development, World Development Report 2008)」、世界銀行、ワシントンDC。

投稿者

Keiko Saito

Disaster Risk Management Specialist

Felix Lung

Social Protection Specialist, World Bank

コメントを投稿する

メールアドレスは公開されません
残り文字数: 1000