
新型コロナウイルス感染症の危機は、例えて言えば、ギアが突然バックに入ったようなものだ。経済成長と貧困削減の成果が世界中で瞬く間に失われてしまった。
この前例のない、希望が失われてしまうような時に、私はIDA資金動員・IBRDコーポレートファイナンス局の局長に就任した。このチームは、新型コロナウイルス感染症との戦いに率先して立ち向かい、高まる需要と危機の影響への対応に追われる途上国に世界銀行が通常と異なる支援を提供できるよう奮闘している。このチームの一員になれたことを心からうれしく思う。
15カ月間に1,500億~1,600億ドルを提供することを目指す世界銀行グループの支援の中には、IDAが提供する500億~550億ドルの低利の融資やグラントが含まれる。
2020年7月からは、IDA第19次増資(IDA19)の対象期間が始まる。
IDAの支援の主な対象となるのは、これまで同様、IDA適格国で暮らす5億人の極度の貧困層だ。IDAは、その活動と成果を通じて世界を全ての人にとってより良い場所にすることを目指している。この使命を果たす上で、IDAは独自の役割を担っており、今回はIDA19の対象期間に期待される5つの革新を紹介したい。
1. 危機への備えと緩やかに進行する危機への早期対応の強化
最も重要なのは、強靱性の構築を強化すること、例えば感染症の世界的流行に備えること、気候関連の打撃がもたらすリスクを削減することなどだ。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、考え得る限りあらゆる打撃に備えて強靱性を強化することの重要性を再認識させるものだったが、これこそIDA19が積極的に取り組もうとしていることである。
2. 新たな債務政策の実施
多くのIDA適格国は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる前から高い債務返済リスクにさらされており、感染症の流行はこの状況をさらに悪化させた。IDA19の新たな債務政策「持続可能な開発金融政策(SDFP)」は、持続可能な形で資金を借り入れるインセンティブを途上国に提供するとともに、IDAやその他の債権者間の調整を促進するものとなる。
3. 雇用の質と量の向上
貧困削減に雇用は不可欠だ。多くのIDA適格国にはもともと十分な仕事がないが、新型コロナウイルス感染症によって雇用環境はさらに悪化している。この分野では、雇用創出につながる民間投資と、切実に必要とされているインフラの整備を促進する。雇用に関してはデジタルテクノロジーも重要だ。IDAの民間セクター・ウィンドウ(PSW)は、国際金融公社(IFC)と多数国間投資保証機関(MIGA)の支援を得ながら、IDA適格国に対する民間セクター投資を拡大し、さらなる投資を呼び込む。適切なスキル等を備えた健康な人的資本の形成もIDA19の目標の一つだ。
4. 紛争の影響下にある脆弱な国々への、各国の状況に合わせた支援の拡大
各国が脆弱性・紛争・暴力(FCV)に関連する幅広いリスクに対応できるよう支援し、FCVを引き起こす要因に立ち向かう強力なインセンティブと説明責任を提供する。世界銀行のFCV戦略は、この点に関する支援を強化するものだ。IDA19はサヘル地域、チャド湖地域、「アフリカの角」等を対象とする地域プログラムを通じて、脆弱性の促進要因となっている地域的要素にこれまで以上に対応していく。
5. 地域的視野の強化
地域内の接続を強化するインフラ、貿易促進、デジタルエコノミーへの投資など、地域統合に対する支援を拡大する。地域的視野に立つことは、各国が共通の目標の達成に向けて足並みをそろえる助けになる。
途上国を取り巻く環境は厳しいかもしれないが、こうした課題を解決することは我々の重要な支援対象、つまり、より良い世界を待ち望んでいる、IDA適格国の全ての貧困層に利益をもたらすことを肝に銘じ、力強く前向きに取り組んでいきたい。
私は、この見通しが描く未来を心待ちにしている。