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世界の援助構造に新しい橋を架ける - 新興ドナーと伝統的ドナーの連携を図り開発インパクトを確保

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世界の開発金融における新興国の影響力拡大から最大限に恩恵を得る  

過去20年間で、世界的な援助の構造は大きく変わりました。それまで先進7カ国が中心であった世界の開発金融に、新興国をはじめとする新たな資金供給源から多額の貢献が行われるようになっているのです。これは、世界の最貧国に対する財政支援の幅を拡大し、深化させたという点で歓迎すべき変化です。   

新興国、つまり世界の資本市場で資金を調達できる中所得国・高中所得国のうち、BRICS加盟国は、購買力平価ベースの世界GDP比で既にG7諸国を上回っています。当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されていたBRICSには、今年になって新しく6カ国が加盟しました。過去10年間をみると、途上国(低・中所得国)に対する二国間融資のうち、22%がBRICS加盟国からのものでした。 

新興国として大きな存在感を示すトルコとサウジアラビアは、現在、国民一人当たりの政府開発援助(ODA)が世界で最も高水準にある二国間ドナーです。中国は、譲許的資金と非譲許的資金のいずれにおいても、単独では最大の融資を途上国に提供しています。  

新興国は大規模なサミットを主催し、開発と気候変動対策に多額の投資を行っています。投資ファンドを設立するといった新興国の動きは、援助構造を変え、数百万人を貧困から救い出し、雇用を創出し、世界の消費を押し上げています。  

国連貿易開発会議(UNCTAD)による世界投資報告書の最新版によると、途上国が世界の海外直接投資(FDI)に占める割合は2021年の60%から2022年は3分の2以上に拡大しました。対照的に、先進国によるFDI貢献額は、金融市場の不確実性と先進各国における景気刺激策の終了を反映して、37%減少しました。  

国際援助における新たな課題  

世界の開発に充てることのできる資金が増えるのは、間違いなく喜ばしいことです。しかし現在、新興ドナーをほぼ除く、経済開発協力機構の開発援助委員会(OECD/DAC)による報告にある通り、世界の援助構造における細分化が進んでいます。公的資金フローの額が倍増したのに対し、ドナーやドナー機関の数は2002年から2021年の間に215から565に増加しました。同じ期間に、公的資金と民間資金のバランスが変化し、現在は民間資金が全体の70%近くを占めるに至っています。OECD/DACのデータに基づくと、こうした傾向が組み合わさった結果、世界の最貧国に大きく4つの課題が生じています。 

第1に、ドナーやドナー機関の急増は、十分な機能を備えていない被援助国にとって多大な負担となり、すでに複合的危機への対応に苦慮する各国で取引コストを増大させています。  

第2に、ドナー資金による活動は、細分化が一段と進んでいます。政府開発援助(ODA)グラントの平均額は、2000年の170万ドルから2021年は80万ドル未満へと、半分以下に減少しています。そのため、今では資金規模こそ大きくなったものの、これまでより小規模な取組みへと細分化が進んだ結果、既に過剰債務に陥っている被援助国のコストが増加しています。 

第3に、被援助国の政府予算を経由しない開発援助の割合が増え、国家機関に制限がかかっています。現在、4件のプロジェクトのうち3件は非政府組織によって実施されていますが、これらの資金の半分は被援助国の予算に含まれないため、援助効果が損なわれています。また、ドナー資金が特定の使途に限定されることが多くなっているため、資金を活用し、各国が利用できる資金の総額を増やす機会が制限されています。 

第4に、特定のセクターやテーマに対象が限定され、レバレッジを効かせないファシリティに配分される援助額が大幅に増加しています。こうしたファシリティのグラント・コミットメント総額は、過去20年間で16倍に増加しましたが、国際開発金融機関(MDBs)の譲許的融資ファシリティへの実質拠出額は減少しています。これは、乏しい譲許的資金を活用する機会が失われたことを示しています。 

こうした傾向は、世界全体でみて何を意味しているのでしょうか。支援の重複と断片化が援助より妨げになることを防ぐため、世界の援助コミュニティは協力する必要があります。各国が開発支援から最大限の利益を得られるように、伝統的ドナーと新興ドナーが意思疎通を図り、共通の目標に向けて透明性を確保しつつ協力し、低所得国の負担を軽減する必要があります。このプロセスにおいて被援助国政府が主導的役割を果たすことがに重要です。 

こうした懸念に対応する機関のひとつが、世界銀行の国際開発協会(IDA)です。世界各地に展開するIDAはその招集力と分析力ゆえに、グローバルな援助の調整を支援できるユニークな立場にあります。  

IDAは貧困層向けの世界最大の基金として、59のドナー(BRICSの全加盟国を含む)で構成されるグローバル・コミュニティを有していることから、効果的な支援が可能です。IDAは、レバレッジを効かせないファンドとは異なり、ドナーからの拠出金1ドルに対して4ドル近い支援を最貧国に提供することができます。IDAは、援助構造について議論し、情報共有と透明性を促進するための統合プラットフォームを提供することで、被援助国の負担を軽減します。さらに、細分化を軽減し、被援助国政府経由で資金を提供することにより、資金が確実に有効活用されるようにし、ひいては各国のシステムを強化します。また、各国政府、市民社会組織、その他の開発パートナーを招集できるIDAは、我々が直面する課題に対応する上で重要な役割を担っています。  

開発資金への需要が高まる中、譲許的融資の提供、債務の持続可能性促進、パートナーシップの強化を図るIDAは、世界的な危機や世界の援助構造における新たな課題に立ち向かう上で不可欠です。 

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投稿者

西尾 昭彦

世界銀行 開発金融総局担当副総裁

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