気象・気候・水文サービス市場には、GoogleやIBMなどの誰もがよく知る企業を含む民間企業が続々と参入しています。こうした傾向は「気象水文サービスの提供において公的セクターは将来的にどのような役割を担うのか、そしてその役割と、拡大していく民間セクターの役割をどのように受け入れていくのか」という重要な質問を突き付けています。
民間企業が提供する気象水文サービスの幅は広がる一方です。 貨物船が最適の航路をたどるための気象・波浪予報および警報、化粧品業界向けのシーズン商品の在庫調整に向けた季節予報、コーヒー園や茶畑またはスポーツイベントやコンサートを専門とする予報、ドローン発射の支援サービス、新たな視覚化ツール、衛星情報、他にもまだまだあります。
ここで一見分かりづらいのは、前述のような民間サービスの多くは公的セクターが資金提供・管理する国の気象水文機関(NMHS)から提供されるデータに依存しているということです。毎日スマートフォンで見ることができる天気予報を例にとります。こうした天気予報サービスはほとんどの場合、民間プロバイダーがエンドユーザーに提供していますが、それは大量の気象水文データを収集、デジタル化、分析している世界的なNHMSネットワークが提供する情報を利用しているのです。実際に、こうした公的サービスが集まってグローバルな気象水文システムの根幹部分を形成しており、これが気象サービス産業の繁栄を促す土壌となっています。
民間セクターが提供できるサービスの範囲は拡大していますが、最終的には政府の責任となるため、公的セクターが提供すべき領域が1つあります。それはリスク情報および早期警報情報の提供です。政府の最優先事項は国民および資産をハザードから守るということです。 リスク情報および早期警報は公共の利益という性質を持つため、追加料金なしで分け隔てなく提供されなくてはなりません。 基本的に人々の命と資産の安全は、気象・気候サービスを提供する公的機関の主たる存在意義であり、こうしたサービスの提供費用は政府が負担するべきです。
しかし同時に、官民双方のサービスプロバイダーが協調して対応すれば警報・アラートシステムを向上することが可能であり、社会の各構成員が確実に実用的な情報を受け取ることができます。多くの国ではすでに民間企業が国のネットワークを補うデータを提供し、早期警報情報の伝達を支えていますが、官民間の競争は何としても回避しなくてはなりません。原則としてそのような競争は非生産的だからです。
民間セクターが気象水文のバリューチェーン強化において担うことができる役割は多岐に渡ります。例として、最適化と統合によりビジネスプロセスに特化したサービスを生み出し、学術部門と協力してイノベーションおよび技術進歩における先駆者となり、特定ユーザーのニーズに対応することができるでしょう。民間セクターは気象水文サービスの全体的な発展および雇用創出において重要な役割を果たすことができるのです。
それでは、どうすれば気象水文サービスにおいて官民が効果的に協働することができ、またそれがうまく行く国とそうでない国があるのはなぜなのでしょうか。
防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が最近発表した報告書「パワーオブパートナーシップ:気象水文サービスにおける官民協働」は、官民が効果的に連携するための重要条件を考察しています。重要条件には、民間セクターの参加を可能にするセクター間のe役割および責任の分担が明確にされているオープンデータに関する政策、ならびに制約のない国の法制度および法的枠組みが含まれています。
他の多くのセクター同様、気象水文サービスでもオープンデータに関する政策(または管理の行き届いたデータアクセス)は運営における意思決定および効率の改善、ならびにデータ、製品、付加価値サービスへのユーザー需要の拡大をもたらします。データをオープン化することで、誰もがデータを再利用して、新たな非公共サービスを国および国際レベルで提供できるようになり、社会経済的利益を最大化することができます。
官民で効果的に連携するには、NMHSの役割とデータアクセス方針の管理を明確にすることが極めて重要です。これが明確でなければ、バリューチェーンの構築、および官民間の活発で目的に即した協働関係の構築が阻まれる場合があります。
こうした役割および責任が必ず明確に定義されるよう、国は民間セクターの発展を制限しない安定した制度的環境の構築を検討しなくてはなりません。多くの気象関連の法律、またはそうした法律の欠如(欠如している場合が多い)は、民間セクターがデータおよびサービスの構築および発信において独占を強める要因となっており、活発な官民協働を通じた社会経済的利益の最大化が妨げられています。
このレポートは、セクター間で協働体制および信頼を構築するさまざまな方法、強力な官民連携に必要なその他の重要要素、それぞれの役割および責任に応じた公的セクターの能力構築の重要性を取り上げています。
気象水文サービスに関してはニーズが増加し、世界的に大きく変化し続けているため、公的セクターと民間セクターの役割は相反するという見解はもはや当てはまらなくなっています。 公的セクターと民間セクターが根本的に絡み合っていることを認識し、官民が一層強力に連携して将来のニーズに対応するよう取り組まなくてはなりません。
コメントを投稿する