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Ready to Rebuild: 台風ライの被害から、フィリピンは復興へ向かう

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A general view of disaster area aftermath of Typhoon Rai in Leyte, Philippines on December 20, 2021 A general view of disaster area aftermath of Typhoon Rai in Leyte, Philippines on December 20, 2021

2021年は、何百万人ものフィリピン人にとってつらい終わりを迎えました。台風ライ(台風22号、フィリピン名:オデット)が同国の南部と中部に壊滅的な被害をもたらしたからです。ここ10年間、フィリピンを襲った台風や地震の頻度と強さは高まる一方です。このような状況を受けて、建物の災害への備えや強靭化がかつてないほどに求められています。

大規模な災害が発生したあと、ほとんどの国は復興や再建に苦労します。フィリピンも2009年と2013年にそれぞれ台風ケッツァーナハイヤンの被害を受けたのち、同じ困難を経験しました。 2013年当時、私はフィリピン大統領府に勤務しており、政府の主導する台風ハイヤンからの復旧・復興作業の調整役を担っていました。当時、作業の枠組みやひな形づくり、セクターの優先順位付け、予算の再配分、復旧クラスターの調整、被災コミュニティとの対話、そして方針を定め、速やかに包括的な復興計画を立てるなどの仕事に奔走した日々を今でも覚えています。 

各省庁、地方自治体、民間部門、市民社会や国際機関を含む数百にものぼるステークホルダーとの調整にまつわる難しさはいまだに忘れられません。何よりも、被災した州や市の職員のもとを訪ね、彼らが災害対応や救済作業に忙しく追われている最中に復旧計画の提出を求めなければならなかったときには心が痛みました。 

当時の経験は、もっと賢く政府やステークホルダーを助け、被災地域を支え、災害に対応して復旧につなげるために「プレイブック(作戦)」は不可欠であるという大きな教訓を授けてくれました。それと同時に、災害発生時に現場で対応を求められる自治体の復旧計画能力をあらかじめ養っておく必要性も学びました。 

台風ハイヤンの教訓を活かし、事前の復旧計画に焦点を当てたプログラムの検討が始まりました。その結果、知事、市長、防災担当者、自治体の計画や予算の担当者などを対象として再建への道筋を描いた「Ready to Rebuild (R2R)」という能力開発プログラムが誕生したのです。

R2Rは世界銀行とフィリピン政府を代表する国家減災・防災委員会(仮訳)(National Disaster Risk Reduction and Management Council)および市民防衛局との共同で開発され、導入に至りました。また、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、そして日本―世界銀行防災共同プログラムから資金の提供を受けています。
 
R2Rは「手段」を伝授するプログラムであり、人々、地域社会そして自治体が災害に対する強靭性を高め、より賢明かつ素早く災害に対応し、災害から回復するための「手段」を提供します。 プログラムは様々なツールやすぐに使えるテンプレート、復旧に関わる問題や障害の解決策を網羅しており、参加者は専門家、実務家、その他の自治体の担当者から以下の領域について学ぶことができます。

  1. 様々なリスクを統合したフィリピンのデータベースGeoRiskPHを用いて、科学的根拠およびリスク情報に基づく復旧計画の立案
  2. 十分機能する復興事前準備および事後の復旧フレームワークの整備。 
  3. 主要なステークホルダーや組織間の調整事項、そして実行手順の特定。 
  4. 被災地域の資金の調達戦略を策定し、復旧・復興予算を確保。

プログラムの終わりに、参加者は下記を含む3種類の成果物を作成します。これら資料は実際に災害が発生した場合、それぞれの復旧計画の策定や実行に役立つことが期待されます。 

  1. 災害が発生する前の地域の基本データ。このデータは、地域のデータベースから不要な情報を取り除き、根拠に裏付けされた災害対応や復旧作業を行う際に必要な情報です。そして災害が起きたあと、被害の状況判断やニーズの分析を速めてくれます。 
  2. 自治体の災害リスクファイナンス戦略。この戦略により、復旧に要する資金確保の方法が明確になり、プロジェクトの実施にかかる予算の調達先を特定することができます。 
  3. 事前の復旧計画。これは、復旧に欠かせない基本的な要素を簡潔にまとめたものです。災害の影響度に応じて改訂することができます。この計画により、復旧事業の計画や実施にかかる時間を短縮することができます。

地方自治体が台風ライの打撃で揺らぐなか、台風ハイヤンのときに経験した、われ先にと復旧作業を始めようとする自治体間の争いはR2Rのおかげで回避することができました。中央政府はR2Rを活用して州や市の復旧計画の作成を早急に支援し、再建プロジェクトを実行して支援金を調達しました。資金は、世界銀行のスタンドバイ借款制度による「第四次災害リスク繰延引出オプション付き開発政策融資(CAT-DDO 4)」から拠出された2億ドルの災害対応および復旧支援金に加えて確保されました。

フィリピン中の自治体職員がR2Rのツールを積極的に使いたいと考えていることは、同プログラムへの参加率の高さからうかがえます。全17地方から計197の州と市が研修に参加しました。そこには、台風ライの被害を受けた自治体も含まれます。これにより、924名の知事、市長そして現場担当者が復興への備えを完了(Ready to Rebuild)しました。 

台風ハイヤンからおよそ10年後に発生した台風ライは、災害の発生後に遅滞なく復旧を進めるために必要なツールを各自治体が備えていれば、人命や生活を守ることは可能であると証明してくれました。 これからもフィリピンが国の強靭性を強化していく道のりにおいて、世界銀行は同国とともに歩み、より優れた、そしてフィリピンに適した持続可能な解決策を探求し続けていきます。


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