マルパス総裁・サル大統領(Jeune Afrique紙3月16日号)
水は人間が生きていく上で絶対に欠かすことのできないニーズであり、開発、成長、強靱性にとって極めて重要である。 清潔な水、安全な衛生施設、良好な衛生状態は、保健分野で望ましい成果を達成するために必要となる。
しかし、世界人口の1/4に相当する20億人は安全な飲料水を確保できず、世界の人口半分に相当する36億人は安全な下水へのアクセスがない。
人的資本に及ぼすダメージは極めて深刻である。2019年、下痢性疾患は世界の死因ランキングで8位につけ、世界全体で150万人が命を落としたが、その大きな要因に劣悪な上下水道がある。特に大きな負担がかかっているのが女性と女子である。衛生的で人目に触れず用を足せるトイレが学校に存在しないため、出席率の低下や学習機会の喪失をもたらし、生涯にわたって悪影響が残る結果を惹起している。
上水サービスへの1ドルの投資からは、3ドルのリターンが得られる。農村部での水への投資の場合、リターンはさらに大きくなる。水は生産活動にとって重要であり、特に農業がGDPの23%を占めるサブサハラ・アフリカでは大きな意味を持つ。また、水は、水力発電や鉱業、工業の鍵でもある。そして重要なことに、異常気象の9割は水に関連しているので、水管理の徹底は適応と強靭化の鍵となる。
「コロナの世界的流行は水・衛生サービスに重大な不備があり、公衆衛生に深刻な悪影響が及ぶことを浮き彫りにした。」
開発のための水への投資にメリットがあることは証明済みであるにもかかわらず、多くの国は、水の安全保障、すなわち、十分な水の確保の実現に程遠い状態にある。コロナの世界的流行は、上下水道に重大な不備があり、公衆衛生に深刻な悪影響が及ぶことを浮き彫りにした。 事態が特に差し迫っているのはアフリカで、病気の7、8割は水質の悪さが根本的原因である。干ばつと洪水は激しさを増し、地下水は干上がりつつあり、都市や農場は水不足に直面している。
「水に関する世界最大規模の国際会議」
こうした中、世界最大規模の国際会議である世界水フォーラムが3月21~26日にセネガル・ダカールで開催される。アフリカでの開催は今回が初めてで、政策担当者、ビジネスリーダー、NGO、ドナー、国際機関が一堂に会し、水セクターにおける緊急行動を取りまとめる予定である。その際、1)政策・制度改革の強化、2)官民投資の拡大、3)市民参加の促進、が3つの柱となる。
政策・制度改革の強化は、安全な上下水道の普及を実現し、気候変動への適応を進めるために必要である。水に関連する諸機関、すなわち、河川流域当局や上下水道事業を行う公益事業体・地方自治体に求められる役割は極めて重要であるが、これらの機関については、機能が不十分であったり、任務が適切に定められていなかったりすることが少なくない。
セネガルは、水インフラの建設と政策・制度改革において大きく進歩した国のひとつ で、水道事業に特化した持株株会社や、投資を集中的に手掛ける下水事業体、民間セクターと効率的に協働するPPPなどが貢献した。対象を絞った政策措置や組織改革を進めれば、持続可能で公平な水利用や適正な水価格の設定が可能となり、より多くの数の利用者への効率的なサービス提供に役立つはずである。
「…水セクターにおける緊急行動を取りまとめる予定である。その際、1)政策・制度改革の強化、2)官民投資の拡大、3)市民参加の促進、が3つの柱となる。」
官民投資の拡大も水不足の解消にとって重要である。 今から2030年までの間に投資ニーズは6倍に増えるだろう。アフリカでは最大で年間200億ドルの投資が必要となるが、現在のアフリカ諸国による水セクターへの配分額はGDPの0.5%にすぎない。
これだけの投資は、各国政府だけで賄えるものではない。多くの国が膨らむ債務を抱えながら基本的なサービスの資金捻出に苦しんでいる現在はなおさらである。国際開発金融機関は水分野への資金を25~35%増やすことを表明しているが、不足を補うには民間投資が鍵となり、水セクターへの民間資本参入を拡大するための強力な官民パートナーシップが必要である。
「あらゆるレベルでの参加拡大が求められている。」
こうした取組みが成果を上げるためには、市民があらゆるレベルで参加し、水の利用方法を改め、共有し、節水し、無駄遣いをやめ、大事に使うことが求められている。 セネガルでは、農民が灌漑当局と協力して気候変動に適切に対応できる農業イノベーションに取り組み、太陽光発電による灌漑システムの立ち上げや水確保計画の向上を図っている。その結果、農業生産高の拡大、リスク軽減、農家の所得向上につながると期待されている。農家主導による灌漑はかなり有望ではあるが、農民の知識を高め、資金アクセスを確保するには政策支援や投資が必要である。
人々やその暮らし、資源を守るために、今すぐに行動を起こさなければならない。具体的には、水不足の際のセーフティネットの強化、貯水ソリューション強化を通じた強靭性の構築、水管理の方法を改善するための都市の再設計が必要である。水が引き起こす危機は変化を起こすための機会でもあるが、一刻の猶予がないことも明らかである。
アフリカ連合のアフリカ・ウォーター・ビジョン2025にもある通り、水危機には「水資源をこれまで通り管理していても対応できない」。世界銀行とアフリカ連合は、アフリカ大陸における水の安全保障と強靭性強化に全力で取り組んでいる。
最後に、水をめぐる紛争を未然に防ぎ、国際平和と安全保障の維持に貢献するためには、国境を越えた河川流域の協調的な共有と管理にとって協力がいかに重要であるかを強調したい。
西アフリカでは、セネガル川流域開発機構(OMVS)とガンビア川流域開発機構(ODG)がそれぞれ1972年と1978年に設立され、効果的な協力の具体的な事例となっている。
こうした共通の目標すべてについて、さらなる協力を重ねることで、より大きな成果が得られるはずである。
本ブログは最初に、アフリカ・レポートと、フランス語にてJeune Afriqueにて発表されました。
(参考)著者について
デイビッド・マルパス 世界銀行グループ総裁
マッキー・サル セネガル大統領、アフリカ連合議長(2022年)
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