アフリカ諸国が災害に見舞われた場合、どのような選択肢があるでしょうか。気候環境がより厳しくなり、財源の利用が限定され、社会的・経済的圧力が高まり、さらにパンデミックの最中にいる状況で、増大する気候・気象・水のリスクに対して人々の準備態勢はどのくらい整っているでしょうか。
この5年間、「アフリカ気象水文プログラム」ではコミュニティや国、さらにはアフリカ大陸全体を1つにまとめ、迫りくる災害リスクに対処できるように取り組んできました。その第1段階では、このような課題を克服しようと3億1,200万ドルにのぼる資金が拠出されました。その結果として、 アフリカ気象水文プログラムの投資によって近代化された気象水文サービスの恩恵が、アフリカ全域の2,600万の人たちにもたらされています。 このプログラムでは、15か国以上で実施されるプロジェクトを通して、アフリカの中部や東部、南部、西部の地域機関と、政府機関および地域のコミュニティとをつなげ、最も脆弱な人々を守っています。その一例として、モザンビークにおける気象災害に対する強靭性、気象水文サービスの変革プロジェクトがあります。
モザンビークにおける災害予測・警報システムについて
モザンビークはアフリカで、気象水文リスクに最も脆弱な国の1つです。 アフリカ・南東部の沿岸部に位置し、洪水や干ばつ、激しい嵐、サイクロンによる影響を受けやすい国です。そのためモザンビークは、自然災害やその他のショック、災害に起因する危機に最も脆弱な国の上位10%に含まれます。2019年には、1か月の間に2度も巨大なサイクロンに見舞われました。3月のサイクロン「アイダイ」と4月の「ケネス」です。このような災害によって国民や経済、環境は多大な被害と損失を被ってきましたが、モザンビークには災害に対する強靭性を強化しようとする決意がありました。
アフリカ気象水文プログラムを通じて、このプロジェクトでは早期警報システムを設置し、洪水予測のツールを提供しました。対象となったのは、ザンベジ川とリンポポ川(アフリカ大陸で2番目に大きい川と4番目に長い川)、および近隣諸国やエスワティニ、アフリカ南部を流れるインコマチ川流域です。このプロジェクトではまた、ガザ州の主だった場所の農家に気象水文情報を提供しました。ガザ州にはリンポポ国立公園とバンヒネ国立公園のような環境が保護された貴重な地域があります。イニャンバネなどの沿岸部には気象サービスの警報システムが整備され、最も必要とするコミュニティにデータを送信できるというイノベーションが実現しています。機能の整った気象予測・警報システムが、初めてマバラネ、イニャリメ、およびマシンガといった地域にも整備されました。
このような取り組みすべてによって、58か所の河川観測所で行う観察とモニタリングが変革され、気象水文モデルと予測が近代化されました。その結果、防災や災害の被害抑止、災害への事前準備が強化され、プロジェクトの目標を120%以上達成しました。現在では、66か所以上の総観的な気象観測所および65か所のリアルタイム気象監視所からの日々の気象予報と、見込まれる被害を基に発令する警報が、住民やコミュニティ、企業に同じように役立ち、モザンビークの国民の命や生活を守り、国全体の発展を後押ししています。連携することで本計画ではこの成功例を広げて他のエリアで再現し、様々なプログラムを通じて モザンビーク全土とアフリカ全域に拡大していきます。
モザンビークの水資源管理担当局長、メーサイズ・マシエ氏によると、現在のモザンビークはかつてないほど準備態勢が整っている上、強靭な災害リスク管理をさらに強化し、持続可能性を高めようと継続的に取り組んでいる、といいます。このような進展が見られるのは、モザンビークだけではありません。
ニジェールの新たな監視・警報・危機対応運用センター
ニジェールでは400万を超える人たちが災害リスク管理および都市強靭性プロジェクトの恩恵を受けています。このプロジェクトは、災害対応や、自然災害に対する強靭性構築、気象水文サービスの技術的能力向上のために設定されたもので、アフリカ西部の国々に大きな影響を与えてきました。最近では、新設された監視・警報・危機対応運用センター(Operational Center for Watch, Alert and Crisis Conduct)が、ニジェールの国民に向けて危機警報や早期警報を発出したり、危機対応サービスを提供したりしています。
加えて、女性のリスクに対する強靭性を高める目的でジェンダーに焦点を置いた取り組みも国内の8地域で行われ、災害リスクを管理するため、女性リーダーに早期警報戦略に関する訓練を提供しました。また、ニジェールの全国民に発信される気象水文データの質を高めようと、気象水文の専門家向けの訓練も実施されました。さらに13地域にある水および市民保護の機関は現在では、気候の脅威を特定し、災害対応の効率を向上するため、ドローンを含めた設備が強化されています。
プロジェクトを通じて上流流域において、土地と水の管理方法を持続可能なものにし、それによって気象水文サービスを提供したことも、ニジェールに恩恵をもたらしてきました。対象となった土地は1万5,000ヘクタール(ha)を上回り、1万 ha近くは高原と斜面にあり、6,000 haは砂丘にあります。こうした取り組みの結果、ニジェールの国民にとって大きな社会経済的改善がもたらされました。最近の調査で明らかになったのは、この土地の修復により所得が増加し、増加分の44%は家庭が必要な食料と栄養素の購入、22%は農業と生計、11%は子どもの教育、22%はそのほかの生活・生計の改善に活用され人々の生活を高めているということです。加えて、ニジェールの女性たちが率先してこの取り組みを行っていることも分かりました。
災害が発生する可能性は常にありますが、壊滅的な状況を回避して減災するためには、災害への準備が重要です。 ニジェールとモザンビークのこのようなプロジェクトは、災害に対する準備と強靭性を強化する国々を支援する様々なプロジェクトの一例です。 こうしたプロジェクトは、世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、アフリカ・カリブ・太平洋諸国(ACP)、欧州連合(EU)、日本―世界銀行防災共同プログラム、気候リスク・早期警報システムイニチアチブ(CREWS)、気候投資基金(CIF)といったパートナーの支援、および様々な政府の支援を受けているため、大陸全体での進展が可能になっています。
災害への取り組みのストーリーは国によって異なりますが、実のある変化をもたらすためには関係者が集中して総力をあげ、協調しながら連携することが必要です。そしてこれを体現したのが、アフリカ気象水文プログラムです。アフリカ全域で少しずつ、プロジェクトごとに、一人ひとりに前向きな変化が起きています。
この記事は、世界銀行のOdete Duarte Muximpua, Water Supply and Sanitation Specialistと、Brahim Abdelwedoud上級都市開発専門官が寄稿しました。
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