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昆虫を利用した食料、飼料、肥料の生産:難民と受入コミュニティの成功モデルとなるか?

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Benoit and Herve, two refugees from the Democratic Republic of Congo who live in Tongogara refugee camp in Zimbabwe, show black soldier fly larvae. Benoit and Herve, two refugees from the Democratic Republic of Congo who live in Tongogara refugee camp in Zimbabwe, show black soldier fly larvae.

難民たちが受入コミュニティに技能や創造性、起業家精神をもたらしている例はめずらしくなく、アフリカも例外ではない。 残念ながら、難民危機は短期間で終息するわけではない。難民の大半は長期間にわたり、避難生活を続けることになるとは思っていないが、実際には、避難先での生活は10年以上にわたって続く。そのため、短期的な人道援助だけでなく、長期的視点での取組みが不可欠になる。食料と農業への投資は、雇用創出、生計確保、利益実現という意味で、難民と受入コミュニティの両方にとって有効な長期戦略である。 

世界銀行はこのほど発表した「アフリカの昆虫利用農業と水耕栽培:食の循環型経済」の中で、脆弱性・紛争・暴力の影響下にあるアフリカにおいて、食料セクターにおける循環型経済実現という視点から最先端の農業技術を導入する利点について論じている。特に、昆虫利用農業をとりあげ、雇用創出、生計の多様化、栄養へのアクセス向上といった面でどういった貢献が期待できるかを分析している。

昆虫農業の導入と市場拡大は、毎年、世界的に増加を続けている。食料と飼料に利用される昆虫の世界市場は、今後10年間に年率24%で拡大し、2030年までに最大80億ドル規模になると推定されている。 現在、食生活に昆虫を取り入れている人の数は、アフリカを含め世界全体で約20億人に上る。昆虫は、ほかの動物性タンパク源よりも環境負荷が低く、大豆プロテインよりも栄養価が高い。タンパク質、亜鉛、鉄、カルシウムを含むので栄養豊富な食料や飼料になるし、有機肥料にもなる。ところが現在、その入手ルートと言えば、野生の昆虫を採集してくるぐらいしかない。

農業に昆虫を利用すれば、健康的で栄養豊かなタンパク源として人間、魚類、家畜のための食料・飼料を年間通じて供給することができる。しかも、これまでのような農地だけでなく、乾燥地帯や難民キャンプでも生産が可能な上、生物多様性をはじめとする重要な天然資源の保全とも両立が可能である。昆虫は家庭から出る生ごみや、農家や醸造所の有機廃棄物で育つ上、温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動に対応できる生計を生み出し、食料安全保障も強化する。難民キャンプでは質のよい有機廃棄物が大量に出るので、これを餌にして昆虫を育て、今度はその昆虫の排泄物を有機肥料として食料システムに還元することができる。この革新的アプローチは、アフリカの食料システム強化に役立つだけでなく、従来型の農業を補完する循環型経済にふさわしい。

また、昆虫利用農業のテクノロジーが普及すれば、食料、飼料、肥料の輸入を減らすことができるので、農家にとっては節約になり、政府は外貨準備を減らさなくて済む。 そうした農業経営は低コストで始めることが可能であり、女性や若者、さらには資源の乏しい場所に暮らすことの多いに難民も対象に、気候変動に強い雇用への機会を開く。アフリカでは13カ国で既に850の昆虫養殖場があり、食料・飼料・肥料を生産している。仮に、アフリカの上位10カ国の農業大国で、生産量が上位5位までの穀物から出る農業廃棄物の30%を集め、アメリカミズアブの飼料として活用しするとしよう。その場合に期待できることは以下の通りである:

  • 魚や大豆を原料とする従来の家畜用飼料6,000万トンの代わりとして利用可能
  • 直接・間接に1,500万人分の雇用を生み出し、バリューチェーン全体で収入と生計を創出
  • 年間で車両1,800万台分の交通量を減らすに等しい温室効果ガス排出量を削減

ほかにも、以下の利点が見込まれる:

  • 水がほとんど必要なく、耕作可能な土地も不要のため、地元の食料システムと天然資源の持続可能性を強化
  • 昆虫養殖プロセスで生じる昆虫の排泄物(ふん粒)を原料とする有機肥料を使うことで、土壌の健全性を向上
  • 天然資源をほとんど必要としないより安定的で持続可能な食料システムの構築が経済的機会を創出し、和平構築に貢献すると共に、脆弱性・紛争・暴力への強靱性を強化

難民たちは起業家精神を備えており、労働意欲も旺盛だ。移住前には農業セクターや食料セクターで働いていた人が多く、農民だった人は自らの持つ技能を生かしたいと考えるが、避難先では耕作地や知識、資源が手に入らないことが多い。昆虫利用農業のような新しいテクノロジーなら、耕作地はいらないし、希少な水資源に手をつける必要もない。このテクノロジーにアクセスを提供できるか否かが、開発コミュニティの腕の見せ所である。経済面と栄養面での利点は明白だが、それだけではない。避難を強いられた人々に、社会面と心理面で重要な恩恵をもたらす可能性があるのだ。

昆虫利用農法を覚える過程で、難民たちは実用的なスキルを身に付けることになる。それは、生計を立てて維持するために役立つばかりか、避難先でも母国への帰還後も資産となるスキルである。世界銀行と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は現在、ケニア、マラウイ、南スーダン、ジンバブエで、食料と飼料のための昆虫利用農業のパイロット・プロジェクトを始めようとしており、2023年には拡大の予定だ。この取組みが、世界の食料・栄養安全保障の危機緩和に貢献することが期待されている。


投稿者

Dorte Verner

Lead Agriculture Economist in Food and Agriculture Global Practice (GFADR)

Line Astrom

UNCHR, Senior Livelihoods and Economic Inclusion Officer

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