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イエメンにおける気候変動に強い都市づくり

Young boy sitting by centuries old cistern in Yemeni town of Hababa. Young boy sitting by centuries old cistern in Yemeni town of Hababa.

イエメンの紛争は、現在7年目に突入しています。紛争による都市インフラの損壊に加え、水不足や洪水被害、限定的な政府機能が原因となり、人口約3,000万人の内3分の2が安全な水や衛生をはじめ必要不可欠なサービスを利用できない状況にあります。 さらに極度の貧困、食料・水の不足、コレラの流行、脆弱な医療体制が重なり、人道危機が深刻化しています。

これらの危機的状況を考えると、イエメンにおける気候変動対策について議論するのは時期尚早と思われるかもしれません。しかし、イエメンは気候変動がもたらす極端な危険性に対して無防備な状態にあります。この国では、気候変動の加速に伴い、水不足や熱波、砂嵐、地滑り、鉄砲水・河川氾濫、海面上昇、高潮浸水が増加すると予想されています。極端な気温上昇の加速化や頻発も予想されており、都市部でヒートアイランド現象の悪化が懸念されています。

一方、イエメンの都市では、基本的サービスの提供すら難しくなっています。中でも、不利な立場のコミュニティは、異常気象や不十分なサービスの影響を受けやすい地域にあることが多く、悪影響が集中してしまいがちです。しかも、状況はこれからも悪化の一途を辿るでしょう。このところ激化する暴力行為を逃れて比較的な安全な都市部へと流れる人が増えており、都市インフラやサービス、国内の社会構造を圧迫しているからです。

 

イエメンの強靭な都市づくりを支援

簡単な解決策はありませんが、都市サービス改善に向けた努力は進められています。世界銀行は「イエメン統合型都市サービス緊急プロジェクト(YIUSEP)」の下で、2017年から2020年、国内10都市に緊急サービスを提供しました。2021年6月には、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)との連携により、同プロジェクトの第2フェーズであるYIUSEP IIが開始されました。第2フェーズでは、同国による緊急ニーズへの対応支援として、プロジェクトの対象に選ばれた16都市(Aden, Al Dhale’e, Al Hodeidah, Al Mukalla, Amran, Bayt al-Faqih, Dhamar, Ibb, Lahj, Sa’ada, Sana’a, Say’oun, Shihr, Taiz, Yarim, Zinjibar)において、都市インフラ・サービスの復旧と、気候変動に対する強靭性強化を行いました。本プロジェクトにより、約300万人が恩恵を受けることになります。

将来を見据え、洪水、鉄砲水、地滑りを中心に、都市別にリスク・レベルを評価することも重要です。例えば、人口が密集し歴史的建造物が多いサナアのような都市は特に脆弱ですし、イエメン沿岸部の都市は、すでに海面上昇や高潮の被害を受けています。リスクを把握し、備えるために何ができるでしょうか?

日本政府が資金を提供する「質の高いインフラ投資(QII)パートナーシップ」からの補助金は、イエメンにおける気候変動に強いインフラ構築のための革新的アプローチを模索する機会を提供しました。補助金は、16都市の気候評価に充てられ、評価結果を基にYIUSEP IIプロジェクトの下で気候変動に対応した投資が行われました。

日本政府が資金を提供する「質の高いインフラ投資(QII)パートナーシップ」からの補助金は、イエメンにおける気候変動に強いインフラ構築のために、リモート・センシング、地理空間水文解析、インフラ・プロジェクト用グローバル・リスク・マップなど革新的なアプローチ模索の機会を提供しました。補助金は16都市における気候評価に充てられ、YIUSEP IIプロジェクトの下での投資に気候に関する要素が含まれるようになりました。

2022年3月と6月、この補助金を用いてキャパシティ・ビルディングのための6日間のワークショップが開催され、防災、都市の強靱性、質の高いインフラ設計に関する日本や各国の知識と専門性が共有されました。参加者は、イエメンの政府機関、地方自治体、学術機関、NGO、民間セクターから80名以上に上りました。

 

気候変動問題への取り組み

ワークショップで明らかになったのは、イエメンの都市が暴風雨や洪水、地滑りの増加に直面しており、こうした気候現象の軽減がますます難しくなっているということです 都市のインフラは不十分で、損傷している、または維持管理が行き届いていません。豪雨による雨水や洪水を管理しようにも、時代遅れの空間計画、急速な都市化、インフォーマルな居住地の広がりがそれを妨げています。しかも、イエメンには降雨やその他の気象予報の情報を一元管理する機関が存在しないばかりか、これらの都市には早期警報システムや緊急時対応計画も存在しないに等しい状況で、情報を持たないコミュニティには災害への備えができていません。

ワークショップの開催を通じ、気候変動に対応したインフラ設計に関して、イエメン現地の知識が蓄積されました。例えば、雨水管理、都市の生物多様性、開かれた公共空間における社会的統合の促進に関する知識が含まれます。日本をはじめ各国から国際的に活躍する専門家が、都市の洪水管理の経験や、自然資本を活用した解決策、持続可能な固形廃棄物管理の実践、強靭性の向上などの経験を紹介しました。

また、ワークショップでは、他国の経験、教訓、解決策を参考に、YIUSEP IIの投資パイプラインをどのように構築すれば、イエメンの都市の気候適応を支援できるかについて議論が進められました。

イエメンには、適応計画の改善や、洪水・鉄砲水に強い都市インフラの構築に向けて、多くの課題が残されています。世界銀行は現在、コンサルタントや専門家を派遣して、いくつかの都市の地域社会やステークホルダーと直接関わりながら現地調査を行って、気候変動関連で最も差し迫った問題を見極め、支援の優先順位付けと設計を行っています。

 

関連項目


投稿者

Emily Owen

Urban development specialist, World Bank

Pasquale Franzese

Disaster risk management, climate change, and resilience consultant, World Bank

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