日本の都市インフラは、世界最高の水準にあります。しかし、それは一夜にして実現したものではありません。日本のインフラ整備に対するアプローチは、経済成長と持続性のバランスを反映しながら、段階的に発展していきました。
第1期は、太平洋戦争終結後の戦後期であり、同期においては高度経済成長と急速な都市化を特徴としました。その後、第2期である1970年代には緩やかな成長期を迎えましたが、この時期には都市の無秩序な拡大(スプロール現象)や汚染など、都市化の弊害が明らかになりました。1991年以降の第3期は現在も続いており、GDPの低成長、人口の急速な高齢化、国内経済における都市部依存の高まりが特徴的となっています。しかしながら、日本が近代における経済発展の成功例であることに変わりはありません。世界人口に占める日本の人口割合は1.6%程度でありながら、そのGDPは世界第3位の経済大国となっています。
また、1995年の阪神淡路大震災や10年前の今月の東日本大震災や津波などの自然災害は、災害リスク管理における質の高いインフラの重要性をさらに浮き彫りにしました。
これらの課題は、質の高いインフラ投資(QII)が、経済発展を可能にし、雇用を創出し、投資を呼び込み、長期的にはコストを削減するものでなければならないことを示しました。そして「質の高いインフラ投資」を定義する基本原則が生まれました。それは、「インフラの正のインパクトの最大化」、「経済性の向上」、「環境と社会への配慮の統合」、「自然災害に対する強靭性の構築」、「インフラ・ガバナンスの強化」です。これらの原則は、2019大阪サミットでG20によって採択され、どの国にも適用可能なものです。
「質の高いインフラ投資」の実践:日本におけるケーススタディ
日本の都心部における「質の高いインフラ投資」の取り組みは、同様の課題に直面している国々に多くの示唆を与えています。そのため、世界銀行と日本政府は、この分野での知識と経験を共有するために協力しています。
今月初め、日本政府と世界銀行の取り組みである質の高いインフラ投資(QII)パートナーシップと東京開発ラーニングセンター (TDLC)は、日本の2都市において質の高いインフラ投資原則がどのように実践されたかを紹介するオンライン・イベントを開催しました。このイベントでは、2つのケーススタディ( 富山市コンパクトシティ開発の取り組み及び福岡市の効率的な水管理)が紹介されるとともに、世界中から参加者が集まりました。そして、質の高いインフラ投資原則が、サービス提供の改善、インフラ資産の質の向上、ライフサイクルコストの削減に寄与することが示されました。
ケーススタディが私たちに伝えること
東京の北西約300キロに位置し人口約42万人を誇る富山市は、コンパクトシティ開発のモデルケースと考えられています。他の日本の市町村と同様、同市は中心部の衰退、都市の無秩序な拡大(スプロール現象)、低い人口密度、人口の高齢化といった課題に直面していました。こうした現象は、既存のインフラ資産の維持管理や修復が、同市の少ない労働年齢層に委ねられてしまうことを意味していました。
富山市は、「コンパクトシティ」の取り組みにおいて、都市計画と交通計画を統合させたアプローチを採用することにより、これらの課題に対応しました。富山市は、都市再生の主力となるものはインフラであると認識しており、経済効率(Value for Money)、つまりコストに見合った価値を維持するためには、インフラ投資の総体としてのライフサイクルコストを考慮する必要がある、との視点を持っていました。
効果的なガバナンス、優れた組織体制及び調整。これらが富山市にとって変革の強力な推進力となりました。同市により打ち出されたビジョンは明確であり、その目的は国策とも整合性のとれたものでした。変革の中心を担ったのは、市内中心部の再開発と効率的な交通網の構築でした。同市により導入されたライトレールトランジット(LRT)システム(路面電車)は、このアプローチが反映されたものでした。同市は、慎重な計画と主要省庁との調整により、3年でLRTシステムを構築。これは、通常同規模のプロジェクトに必要とされる半分以下の期間でした。富山市はまた、古くなった線路を新しい線路の建設に再利用しており、これによりコストが約75%削減されました。
民間部門もまた、富山市の変革において重要な役割を果たしました。同市と現地の企業は、第三セクターである富山ライトレール株式会社を設立。明確な役割分担の下、システム管理が行われています。具体的には、LRTの運営については民間企業が担い、線路と車両については市側が責任を負う、という体制となっています。
LRTは、富山市をより活気づけるための助けとなりました。交通渋滞や汚染が少なくなり、同市における生活環境はより魅力的なものになりました。市民、民間部門、地方自治体といった、全ての主要なステークホルダーが、同市の変革により恩恵を受けています。
福岡市は九州最大の都市であり、150万を超える人口を擁しています。今日、同市には多くの最先端産業や新興企業が集まっています。これは、1970年代に採用された戦略、つまり質の高いインフラに裏打ちされたコンパクトな都心を構築するという戦略、に部分的に起因するものです。福岡市において、水資源の管理運用は重要な課題であり、同市は安全な水源を確保し、需要を管理し、運営費用を厳しく管理するために多大な努力を重ねてきました。配水管の新設に際し、ポリエチレン製のスリーブを配水管に取り付けることを必須としたことはその一例です。これにより2%のコスト増が見込まれる一方で、スリーブは配水管寿命を40年延長することが可能となっています。コストパフォーマンスに優れた措置です。
福岡市はまた、配水管理センターや水再生センターの設立、使用量に基づく料金請求方式の導入、漏水削減プログラム(1979年の14%から2000年代半ばまでに2%に削減する)等の変革も行いました。また、市民やステークホルダーに対する啓発キャンペーンも行いました。
新興経済国への示唆
インフラと開発は、深く結びついています。インフラは、開発を推進するものです。質の高いインフラ投資原則は、日本のような豊かな先進国ではうまく機能するかもしれません。しかし、発展途上国においても、これらの原則を適用することはできるのでしょうか。
適用することができます。富山と福岡から得られた多くの教訓は、様々な都市や国において適用することが可能です。例えば:
- 都市開発と交通開発は密接に関連しており、双方の視点がよく調整される必要があります。都市インフラの定義付けを行うことは、重要な最初のステップとなります。
- 都市は、新たにインフラ投資を行う際の資本コストを削減するために、線路、ブロードバンドの設備、未使用の施設などの既存のインフラ資産の活用を考慮する必要があります。
- 政府機関とステークホルダーがよく調整することで、プロジェクトの設計及び実施に必要な時間を大幅に短縮することができます。
- 戦略的な投資は、インフラ資産の耐用年数を延ばし、コストの削減につながります。
- 優れたガバナンスは、インフラ投資のための計画とプログラムへの信頼度を向上させます。優れたガバナンスは、効果的なリーダーシップと明確なビジョンから始まります。
都市インフラ投資プロジェクトは、それが適切に計画されたとき、都市生活の質の向上、経済成長率の改善、ビジネス・チャンスの提供に寄与するものになります。 日本の経験は、先進国、途上国を問わず、多くの示唆を与えるものと考えられます。
質の高いインフラ投資について:
世界銀行グループと日本政府は、開発途上国へのインフラ投資の質的側面に対する認識を向上させ、配慮を促進するために、質の高いインフラ投資(QII)パートナーシップを設立しました。これには、「インフラの正のインパクトの最大化」、「経済性の向上」、「環境と社会への配慮の統合」、「自然災害に対する強靭性の構築」、「インフラ・ガバナンスの強化」が含まれます。質の高いインフラ投資パートナーシップは、プロジェクトの準備と実行、および知識普及のための支援を通じて、これらの目標の達成に寄与するものです。
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