IDAによる危機対応：柔軟な財政支援を改めて強化

すべての人の生活を一変させたコロナ危機－その始まりは、遠い昔のようでもあり、なぜか昨日のことのようにも感じられる。これまでに達成した成果が帳消しになり、新たに莫大なニーズが生まれるなど、コロナ危機は想像を絶する大混乱をもたらした。資源豊かな国々が国民を守るため迅速に行動を起こし、復興に向けたレースが始まった。そうした中、最貧困国の人々が取り残されることがないよう、世界銀行の国際開発協会（IDA）は取組みを強化して対応にあたった。 

 
それから3年が経ち、世界保健機関（WHO）は先日、コロナによる「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了すると発表した。とは言え、安堵のため息をついている暇などない。 ロシアによるウクライナ侵略という新たな危機が勃発して世界に影を落とし、途上国が不当にも壊滅的打撃をこうむる事態となっている。  

 今回の侵略は、世界的なエネルギー・食料価格の一層の高騰とインフレ加速を招いているが、その副次的影響により特に大きな打撃を受けているのは、最貧困層・最脆弱層である。さらに影響は、コロナ危機と気候変動の結果それでなくても大きく悪化していた状況を一段と深刻化させており、その傾向は特にアフリカと中東において著しい。 

 こうした状況に対応するため、IDAは改めて取組みの強化を図っている。世界銀行理事会はこのほど、IDA危機管理ファシリティの設置勧告を承認した。同ファシリティは、食料不安や異常気象を中心に、複合する世界的危機による開発課題悪化への対応に向け、世界の最貧国支援を拡大していく。また、IDAが拠って立つ世界的連帯の精神の下、ウクライナの復旧・復興に向けた国際的な資金援助を補完すると共に、ウクライナ難民を受け入れている隣国モルドバへの余波にも対応していく。 

 危機対応の核となる柔軟な資金モデル 
 
IDA資金モデルはその適応性の高さにより、これまでの危機対応に大きく貢献してきた。 例えば、コロナ危機の際には、各国のニーズに応え、当時継続中であったIDA第19次増資サイクル（IDA19）の期間を通常の3年から2年に短縮することで、緊急対応の資金を提供するという過去に例のない調整が提案され、これが承認された。 
 
そして今、IDAの財務モデルが再びその適応性を発揮している。今回は、新たに設置される危機管理ファシリティの資金動員のため拠出金のレバレッジ力を駆使し、食料不安や経済的ショック、頻度と激しさを増す自然災害、公衆衛生上の緊急事態や深刻な疾病の大流行に各国が対応できるよう支援していく。  
 
コロナ危機から得られた教訓を、現在や将来の危機対応に役立てるために
 
コロナ危機も、これまでの危機同様、多くの教訓と気づきを残した。その多くは、新報告書「IDA第19次増資（IDA19）を振り返って」に詳述の通りである。例えば、緊急対応と長期的な開発の間でバランスをとることの重要性がある。緊急融資は、気候、保健、教育、農業、インフラ、社会的保護をはじめとする重要な開発重点分野における後退を和らげつつ開発成果を守るために、幅広い分野で活用された。 
 
また、IDAが主に、政府が最貧困層支援のため迅速に行動できる社会的セーフティネットなどのシステムを活用してきたことから、将来のパンデミックや危機的状況に備え、強靱性構築のためのシステムを強化する重要性も学んだ。危機管理ファシリティはこうした教訓を踏まえ、将来的ショックへの強靱性強化、将来の危機の予防、経済・社会的影響の軽減に向けた要素を盛り込んでいく。  
 
今後のポイントは、準備と柔軟性 
 
各国に容赦なく打撃をもたらす一連のショックは、平時の間に危機への準備に投資し、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の悪循環を断ち切ることの重要性を浮き彫りにしている。また、IDAなど、各国を効果的に支援するためのツールは、予見しがたい危機にも対応できる柔軟性と、緊急かつ広範なニーズに対応できるだけの十分な資金を備えていなければならないことも証明している。 
 
IDAは、最も貧しく脆弱な人々と揺るぎなく連帯するステークホルダーで構成されたグローバル・ネットワークであり、私はその一員であることを誇りに思う。 危機管理ファシリティを通じた取組みを進める中で、コロナ危機から得られた教訓を実行に移していく。そして当然のことながら、前例のないこの時代において新たな教訓を学び取っていく所存である。