極度の貧困状態にある人口割合が史上初めて10%を下回った。世界は今、これまでにないほど意欲的に開発に取り組んでいる。持続可能な開発目標(SDGs)の採択、そして2015年末のパリ協定調印を果たした国際社会は今、各目標の達成のために最も効率的かつ効果的な方法を検討中だ。今後5回にわたり、世界銀行グループの主要な5分野における現在の取組みと、今後の計画を紹介する。主要な分野とは、(1)良いガバナンス、(2)ジェンダーの平等、(3)紛争・脆弱地域 、(4)気候変動の抑制と適応、(5)雇用創出、の5つであり、いずれも、2030年を期限とする貧困の撲滅に重要な意味を持っている。
バングラデシュの沿岸では、海面上昇が進んでいる。海岸線が陸地へと前進すると、土壌の塩分濃度が高くなり、結果として農業生産高が減少しつつある。生産年齢人口の多くが都会に流出し、コミュニティは空洞化している。淡水魚が姿を消し、地元の人々が口にするたんぱく質の量が減っている。乾季になると、母親が子供の飲み水を制限しなければならず、1日コップ2杯という地域さえある。
途上国において、気候変動がようやく真剣に捉えられるようになってきたとは言え、まだ将来的な脅威であり、今後長期的に対応していけばいいという受け止め方が一般的だ。しかし、気候変動は、貧しい国の貧しい人々、特に沿岸部や河川デルタ、島に暮らす人にとっては、まぎれもなく目の前に迫る危機であり、避けられない事実として深刻さを増してきている。
ただちに対策を講じない限り、今後の見通しは暗い。世界銀行は、自然災害、干ばつ、洪水、食糧価格急騰の頻発化など、気候変動の影響により、2030年までに新たに1億人が貧困状態に陥りかねないと推定している。
中でも、アフリカと南アジアが特に大きな打撃を受けることになるとみられている。アフリカでは、農業生産高の減少により、食糧価格が12%上昇しかねない。アフリカの人々は所得の実に60%を食費に費やしているため、その場合、栄養不良による成長阻害が23%増加する恐れがある。
極度の貧困を撲滅し、パリ協定 の内容を実現するためには、気候変動による影響深刻化に直面する貧困国を助けるため、直ちに行動を起こさなければならない。取組みの一環として、最貧困層のための世界銀行の基金である国際開発協会(IDA) が、かつてなかった形で、開発に気候変動対策の視点を取り入れようとしている。
喜ばしいことに、我々は効果的な対策が何であるか承知しており、すでに数多くの解決策を現場に導入している。以下に、大きく3つの分野を紹介する。
まず、農業である。世界の貧困層の70%は農村部に暮らしており、農業が主な収入源となっている。貧困を削減する一方で長期的な食糧安全保障を確保しようとする国にとって、気候変動に適切に対応できる農業手法の普及が不可欠となる。セネガルでは、世界銀行グループの支援により、現地の栽培状況に合った、干ばつに強いソルガムとトウジンビエの新種7種が開発された。従来種と比べ、ヘクタール当たり平均1~1.5トン多い生産高を見込むことができるこれらの種子は、全国の農業協同組合にすでに配布されている。
2つ目として、気候変動と災害は貧困との戦いにおける重大な阻害要因となため、最貧困国における世界銀行のプロジェクトでは、こうしたリスクをチェックし、可能な場合はプログラムを調整している。気候変動や災害に強い社会を構築するための最強のツールとして、気候の変化に対応できる、柔軟性を備えた社会的保護プログラムがある。2011年にエチオピアで、干ばつにより食糧不足と飢饉が発生した際、国は、生産的セーフティネットプログラム の対象をわずか2カ月で650万人から900万人に拡大し、支援給付期間を6カ月から9カ月に延長した。こうしたセーフティネットは多額の費用を要する人道支援と比較してコストが軽減される。
もうひとつの差し迫ったニーズは、強靭なインフラ、つまり、異常気象や極端な気候現象に耐え得る道路、橋、建物である。モザンビークでは、2013年の広範な洪水被害の後、世界銀行が政府と協力して、道路建設のために気候変動に強い高い基準を確立し、設計や維持管理のための新技術を試行した。
最後に、再生可能エネルギーの価格低下は、気候変動と貧困に取り組むための新たな機会をもたらしている。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、アクセスの悪い農村コミュニティや都心部で十分な行政サービスを受けていない地域において、低価格エネルギーの安定供給に道を開くものだ。さらに、化石燃料への依存から抜け出せない、または開発が進むにつれ大量の温室効果ガスを 排出するといった状況を防ぐためにも役立つ。世界銀行は、今後3年間で最貧国を対象に、新たに5ギガワットの発電量(2,500万世帯の電化が可能)を確保すべく全力で取り組んでいる。
最も革新的な解決策のいくつかは、気候変動により最も大きな打撃を受けている国やコミュニティが気候の変化に対応しようと努力する中で生まれてくる可能性が高い。その中で、女性の果たす役割は、特に重要になるだろう。女性の方が男性よりも気候変動の影響を受けやすいが、一方で女性は対策で主導的役割を果たしてもいる。例えば、水管理組合の設立、新たな農業手法の試行、小規模事業のためのオフグリッド・エネルギーの活用などが進められている。
気候変動の最前線にあるこうしたコミュニティや国を、我々は全面的に支援する必要がある。行動を起こさないでいるという選択肢はない。相互に連関した世界では、気候変動により、食糧価格高騰、紛争、移民問題など、不安定な状況が発生し、容易に国境を越えて広がる可能性がある。問題を先送りにするという選択肢もない。我々には今、貧困国が強靭性を高め、気候変動への備えを整えられるよう支援するための絶好の機会が開かれている。これから数年間が大きな意味を持つことになるはずだ。先延ばしにすればするほど、リソース、政治的意思、そして最も重要な点として人々の苦しみといったコストが高くなる一方である。
初出:ハフィントンポスト
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