5月31日は、近日開催される「リスクの理解」カリブ会議(Understanding Risk Caribbean Conference)の最終日に当たりますが、この日は今年のハリケーン・シーズンの始まりであることも示しています。バルバドスに会議出席者が集まる中、カリブ海に住宅を所有する人たちは、雨戸を点検し、屋根に釘を打ち、ラジオの電池を交換することでしょう。多くの住人はまだ、2017年のハリケーン・シーズンで受けた、過去に例を見ない被害からの回復途上にあります。このハリケーンが地域のGDPに与えた打撃は、エボラ危機が西アフリカに与えた影響より大きなものでした。被害を受けなかった人たちも、依然として重大なリスクにさらされています。実際、カリブ地域の住民の60%以上が、基準を満たしていない家屋に住んでいると推定されています。基準を満たしていない家屋とは、地震やハリケーンの悪影響を非常に受けやすい、非公式に建てられた家屋を指します。よって、カリブ海諸国が再び影響に備える中、今こそカリブ地域に必要な継続投資についてしっかりと検討することが重要です。これは、(‘Build Back Better ’キャンペーンが浮き彫りにするように)過去の惨状から十分に回復するだけでなく、将来起こりうる地震や、今後より強く、より頻繁に発生する嵐に備えるためにも重要です(Build Better Before)。
もし2017年のハリケーン・シーズンから希望の光を見出すのであれば、それは新たな切迫感をもたらしたことであり、カリブ海諸国の中には、この切迫感を大胆な行動を取るために利用している国もあります。例えばジャマイカでは、「2018年建築法」などの新たな法律が先日可決され、ジャマイカ国家建築基準(Jamaican National Building Code: JNBC)に重要な改善がもたらされました。こうした2つの取り組みは、何年にもわたり進行中であり、これは建築環境においてリスクを低減するためにジャマイカ政府が行った確固たる約束を示すものです。一方で、こうした法律の可決に必要な合意は、近年の事象がもたらしたと言えます。この政治的な意思に基づき、財政および技術支援が「建築規制を活用した防災(BRR)プログラム(Building Regulation for Resilience Program)」および、防災グローバル・ファシリティ (GFDRR)が管轄する日本―世界銀行防災共同プログラムからもたらされ、こうした進展がさらなる重要な一歩に拍車をかけました。ジャマイカ政府は先日、世界銀行のBRR部門およびBuild Changeと提携し、ジャマイカのインフォーマルな建設部門に対する理解を深めました。このことが、低所得の「インフォーマルな」コミュニティが直面している最も重要な技術的、財政的、社会的課題のいくつかを満たす戦略概要の策定につながりました。
日本―世界銀行防災共同プログラムを通じ、GFDRRから支援を受けて最近終了した “Jamaica Informal Building Sector Study“の結果は将来、強靭性構築対策を導く際に鍵となるでしょう。ジャマイカ社会投資ファンド(Jamaican Social Investment Fund: JSIF)のオマール・スウィーニー社長は、同レポートについて次のように述べています。「持続可能で強靭なコミュニティの構築はJSIFの任務の中核を成すものであり、そのため、インフォーマルな建設部門において能力を促進、向上、構築する取り組みは非常に重要です。災害リスク削減の課題と一体を成すコミュニティは、ジャマイカ国内で規制イニシアチブの有効性を高めます。我々は、自分たちの取り組みについて伝えるためにこのレポートを利用していきます。そして、このレポートがカリブ地域全体で広く活用されることを歓迎します。」
それでは、リスクを理解することから劇的に削減することへと移行するのに、新たなハリケーン・シーズンが始まる今ほど適した時期はないのではないでしょうか。前述のジャマイカ調査の共同研究を終える際、Build Change は世界銀行の仲間と共に、カリブ地域に蓄積されている知識がいかに優れているかを示す、カリブ海地域の古い資料という宝の山を発見しました。中には、30年以上前の資料もあります。ですから、私たちが今まで学んできたことを、例えば世界銀行のBRRプログラムを通して規制能力の構築に応用しましょう。政治的な意思を築き続け、継続して建設専門家を育成し、技術資料センターを開き、建築資金を調達しやすくし、リスクを伝えるために技術を活用し、そして許可・設計・監督プロセスの簡略化するために必要な投資を促進しましょう。私たちがこれまで蓄積してきた知見を保険業界と共有し、業界と組むことで住宅所有者と政府、何れものリスクを低減しましょう。過去のハリケーン・シーズンが何らかの兆候を示しているのであれば、一刻の猶予もありません。
English: Understanding and engaging the informal sector for resilient housing across the Caribbean(Understanding Risk)
著者略歴
エリザベス・ハウスラー博士はBuild Changeの創業者およびCEOであり、レジリエントな建造物および被災後の再建に関する世界的な専門家です。ハウラー博士の戦略的方向性とリーダーシップは、2004年時点では社員が数名しかいなかった同社を、2018年には3つの大陸で230名以上の社員と共に活動を展開する強い組織へと成長させました。ハウラー博士は、将来の災害に耐え得るよう再建に力を入れることで他社と一線を画し、それにより国際的に高く評価されました。そして、増加の一途をたどる災害リスクの時代において、レジリエンスを主要な検討事項とすることで、国際的な開発政策に深く影響を与えました。
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