ブログチャンネル Voices -ヴォイス-

もし自然を防災に利用できるとしたら?

このページの言語:
 


スリランカの町コロンボは、豪雨や大洪水により壊滅的な被害を受けました。中国の長江流域では、氾濫した川が堤防を乗り越え、町や村に押し寄せました。アメリカ・アラバマ州のモービル湾では、巨大な波が貴重な海岸線をさらっていきました。

上に挙げたいずれの都市でも、自然災害は人間には太刀打ちできないものだと思われていました。しかし政府は、排水システムや堤防、ダムなどの建築物だけでなく、防災の手段として自然にも着目しました。政府の援助により、数年後には都市湿地、カキ礁、氾濫原が整備され、市民の安全を守るだけでなく、地域経済を潤わせる存在にもなっています。

河川や海岸線の開発が増えたことに加え、異常気象も発生するようになり、気象災害による影響が増大しています。これにより、政府が災害管理のために自然を活用する傾向が強まってきています。  ネイチャーベースソリューション(NBS)とは、戦略的に自然の保護や復元(グリーンインフラと呼ばれることもあります)を行う一方で、従来建設されてきたインフラシステム(グレーインフラ)の支援を行うことです。途上国では、NBSにより、災害リスクの低減と、強靭で低コストのサービスを実現することができます。NBSには、自然の氾濫原の拡張、湿地の保護と拡大、カキ礁やサンゴ礁の保護、雨水をせき止める都市緑地への投資などが含まれます。

 


世界各地の取り組み事例を見ると、このようなアプローチが多くの場合良い成果を挙げていること、そして費用対効果を生んでいることが分かります。アメリカでは、自然の湿地のおかげで、ハリケーン・サンディによる被害総額の6憶2500万ドルを抑制できたとされています。ベトナムでは、沿岸地域の洪水を防ぐため、堤防システムと一体化した広範囲にわたるマングローブ林の保全プロジェクトを実施し、最終的に2憶1500万ドルの費用削減につなげました。オレゴン州ポートランドでは、都市部のグリーンインフラにより洪水の発生が最大94%抑制され、水インフラのみで2憶2400万ドルの費用削減が実現されました。また、中国が30都市で試験導入している「スポンジ・シティ計画」では、広大な緑地と都市設計を融合させることで都市洪水を防ぐ取り組みを行っています。ネイチャーベースソリューションは災害リスクを効果的に減らせるだけでなく、生態系の保全、二酸化炭素貯留、観光、地域の雇用創出など幅広い面にプラスの影響を与えることができます。

 

Kallang Basin in Singapore
写真:シンガポールのビシャン公園にあるカラン川は街の洪水調節を行っています。 出典: Jimmy Tan/Flickr


世界銀行と防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)は、ネイチャーベースソリューション(NBS)への支援を強化しています。過去7年間で、世界銀行のDRMポートフォリオは合計500億ドル以上となり、プロジェクト数は681にものぼりました。世界銀行の災害リスク管理プロジェクトにおけるNBSを取り入れた事例は今や合計20億ドルとなり、災害リスク管理プロジェクトの10個に1個以上がNBSの要素を取り入れていることになります。これらのプロジェクトは、「自然災害、ネイチャーベースソリューション」のプラットフォームで全てご覧いただくことができます。

 
Image
出典: 世界銀行

災害リスク管理者らがうまく設計されたネイチャーベースソリューションを理解し、災害リスク管理プロジェクトに融合させることで、費用対効果および強靭性の高いネイチャーベースプロジェクトに一層資金を回すことができます。 

このような使命を持ち、世界銀行、GFDRR、森林計画(PROFOR)、世界資源研究所(WRI)は実用的な新ツールを共同作成してきました。

  1. 世界銀行とGFDRRによるネイチャーベースソリューションの取り組み概要をまとめた実用的なブックレット。主要な気象災害に対する幅広いネイチャーベースソリューションの実践、資金調達や政策への助言を記載しています。
     
  2. NBSの概要および、沿岸地域のリスク管理河川氾濫のコントロール都市部の災害リスク管理にNBSを活用する方策を記載したパワーポイント資料。
     
  3. NBSプロジェクトに関する世界中のインベントリ(一覧表)や導入ガイダンスを掲載した最新のウェブサイト

これらのツールは、ネイチャーベースソリューションがどのような時と場所で災害リスク管理の価値を高めうるのかを図解しています。また、通例的な災害リスク管理プロジェクトとは異なる、政策や資金面の考慮事項についても記載されています。例えば、政府内の様々なセクターが協働すべきという方針がある場合や、ネイチャーベースソリューションに参画することへの動機づけがされている場合、ネイチャーベースソリューションが成功しやすい、といったものです。  

これらのツールを活用すれば、災害リスク管理に取り組む地域がよりネイチャーベースソリューションを取り入れる手助けをすることが可能です。しかし、それだけでなく、ネイチャーベースソリューションを従来の災害リスク管理戦略と同等の基準で評価するための指針作りや試験的アプローチの推進も求められます。世界銀行、GFDRRおよび関連パートナーは、都市強靭性強化プログラム島嶼国強靭性強化イニシアチブのようなプロジェクトにおいて、革新的な取り組み事例の発展や、これらのアプローチの融合に取り組み続けていきます。そうすることで、自然の力を最大限に引き出し、今よりも災害から身を守れる世界の実現を目指します。

このブログは、世界資源研究所(WRI)のアソシエイトIIであるスザンヌ・オズメント Suzanne Ozment との共著です。 世界水プログラム

関連項目


投稿者

Brenden Jongman

Senior Disaster Risk Management Specialist, GFDRR

Suzanne Ozment

Senior Associate, World Resource Institute

コメントを投稿する

メールアドレスは公開されません
残り文字数: 1000