世界銀行グループは、世界の国[1] を低所得国、低中所得国、高中所得国、高所得国の4つの所得グループに分類している。分類は前暦年の1人あたり国民総所得(GNI)に基づき、毎年7月1日に更新される。GNIは、1989年に更新版が導入されたアトラス方式[3]の換算係数を用いて、米ドル[2] で表示される。世界銀行の所得別分類は、その国の開発段階を反映することを目的とし、経済力の指標として広く利用可能な国民1人あたりアトラスGNIにもとづいている。
各国の所得別分類は、1980年代後半以降、大きく変化してきた。1987年には対象国の30%が低所得国、25%が高所得国に分類されていたが、2023年に入ると、それぞれ12%と40%へと変化している。
ただし、変化といっても上昇または低下、また変動幅は、地域によって大きく異なる。地域別概要は以下の通りである:
- 南アジア地域:1987年には域内諸国の100%が低所得国に分類されていたが、2023年には13%に低下。
- ラテンアメリカ・カリブ海地域:高所得国の割合が1987年の9%から2023年には44%に上昇。1987年、低所得国に分類された国はなかったが、2023年は10%。
- ラテンアメリカ・カリブ海地域:高所得国の割合が1987年の9%から2023年には44%に上昇。
- ヨーロッパ・中央アジア地域:2023年、高所得国の割合が69%と、1987年の71%からわずかに低下。
具体的な推移は、1987年以降の地域別の所得パターンを示す下の図を参照のこと。
分類の変更
2023年の1人あたりGNIにもとづく、2025年度の国別所得分類の最新版はこちら。
統計上の観点から、分類は2つの理由で変更の可能性がある:
- 1人あたりアトラスGNIの変化: 国ごとに、経済成長、インフレ、為替レート、人口増加といった要因がいずれも、1人あたりアトラスGNIに影響を及ぼす可能性がある。また、方法やデータの改善による改訂も影響を及ぼす可能性がある。2023年の1人あたりアトラスGNIの最新データは、こちら。
- 分類基準値の変更::所得分類の基準値を実質的に一定に保つため、中国、日本、英国、米国、ユーロ圏のGDPデフレーターの加重平均である特別引出権(SDR)デフレーターを用いて、毎年インフレ調整が行われる。1人あたりアトラスGNIの新しい基準値(単位:米ドル)は以下の通り:
下の図は、新年度、所得区分が移行する国々:
今年、ブルガリア、パラオ、ロシアの3カ国が、高中所得国から高所得国に移行した。
- ブルガリア: パンデミック後の回復期を通じて緩やかな成長を続け高所得の基準値に着実に近づいており、2023年の実質GDPは消費需要に支えられて1.8%成長。
- パラオ: やはりパンデミック後の回復が続き、GDPは実質0.4%増とコロナ以前の水準を回復。GDPデフレーターでみたインフレ率が8.1%で、名目GNIは10.0%増加。
- ロシア:経済活動 は、2023年の軍事関連活動の大幅拡大の影響を受けたが、貿易(+6.8%)、金融セクター(+8.7%)、建設(+6.6%)の回復もあり成長は拡大。これらの要因により、実質GDP(3.6%)と名目GDP(10.9%)の両方が増加し、ロシアの1人あたりアトラスGNIは11.2%増加。
アルジェリア、イラン、モンゴル、ウクライナはいずれも今年、低中所得国から高中所得国に移行した。
- アルジェリア:2023年の経済は4.1%成長。高中所得国への移行の主な理由は、アルジェリア統計局が現在の国際基準に合わせるため実施した国民経済計算統計の包括的改訂にある。この改訂により、GDPの水準は2018-2022年で平均13.3%増に修正された。これは、例えば、投資推計に研究開発を含めたことや、行政における成果の測定方法改善、未観測経済の計上対象拡大などによる。
- イラン:2023年、主に石油輸出が追い風となり、またサービス業と製造業の利益に支えられ、5.0%の経済成長を記録。GNIは名目ベースで39.5%と大幅増加し、イラン・リアルの下落もあり、国民1人あたりアトラスGNIは17.6%増加。
- モンゴル:コロナ後の回復が続き、2023年の実質GDPは7.0%増加。鉱業活動の23.4%拡大に加え、輸出価格上昇が成長を牽引したことによる輸出の53.4%拡大が成長の原動力に。
- ウクライナ:高中所得国への移行は、2023年に経済成長が再開したこと(実質GDPは2022年の28.8%減から5.3%増)と、ロシアによる侵略が始まって以来15%以上と人口減少が続いていることによる。こうした要因が、国内で生産された財やサービスの価格上昇によってさらに増幅され、国民1人あたりアトラスGNIは18.5%と大幅に増加。ウクライナ経済はロシアの侵略により深刻な打撃を受けたが、2023年の実質成長率は、建設活動(24.6%)が牽引している。これは、破壊が続くウクライナの復興の取組みを支える投資支出の大幅増(52.9%)を反映したもの。
今年は、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区が唯一、より低い分類に移行した。
中東での紛争が2023年10月に始まったため、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区への影響は第4四半期にとどまったとはいえ、影響は甚大で名目GDPの9.2%の落込み(実質5.5%減)につながった。ヨルダン川西岸地区・ガザ地区の経済は基準値に極めて近かったため(高中所得国に移行したのは昨年)、今回の落込みにより、国民1人あたりアトラスGNIは再び低中所得国の分類に戻った。
詳細情報
世界銀行グループによる加盟国分類についての詳細情報はこちら。
各国の貸出内容別分類のページに、所得別、地域別、世界銀行の貸出状況別の一覧と、過去の分類へのリンクを掲載。一覧には、世界銀行加盟国に加え、人口3万人超のその他すべての国を含む。分類は、2023年に入手可能だったGNI数値を反映しているが、国によりさらに正確な最終推計値が発表された場合、修正の可能性がある。
2023年のGNI、1人あたりGNI per capita、GDP、GDP PPP、人口のデータは、現在世界銀行のオープン・データ・カタログで入手可能。いずれも推計値であり、修正の可能性があることに留意されたい。
お問い合せ: data@worldbank.org
[1] 経済と同義で使われる「国」という用語は、政治的独立を意味するものではなく、当局が個別の社会統計または経済統計を報告している地域を指す。
[2] 二つ以上の為替レートが使われている国では、必要なデータが入手可能な場合、現地通貨の米ドル換算に使用される為替レートをこれら複数の為替レートの平均とする。
[3] 基準年1987年以降のデータ。
本ブログ作成にあたり、同僚である Charles Kouame と Tamirat Yacob から大きな貢献があった。感謝の意を表する。
注:本ページに記載されている国別分類は、分析を目的とするものであり、変更があった場合も世界銀行から融資を受ける際の適格性に直接影響を与えるものではない。世界銀行の業務目的で使われる分類では、その国の適格性と世界銀行による融資の条件を決定するために、様々な追加基準が考慮されている。詳細は、世界銀行指令「IBRDの融資条件」を参照されたい。
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