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スリランカ政府への水理模型実験研修

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Kelani River in Sri Lanka Kelani River in Sri Lanka

2016年夏、豪雨による洪水と土砂崩れがスリランカに大混乱をもたらした。特にケラニ川流域に隣接する大コロンボ都市圏は、洪水により数千人が被災し、5億米ドル以上の損害を被った。

スリランカではこのような異常気象が頻発しており、2010年から2018年にかけて洪水により約1400万人が影響を受けている。

これら洪水による被害の拡大を踏まえて、世界銀行は、ケラニ川流域における洪水レジリエンスを向上させ、災害予測・準備・警報システムをアップデートすること等を目的とした「気候変動対応マルチフェーズプログラムアプローチプロジェクト」のフェーズIに融資した。

このプロジェクトの重要案件の一つは、ケラニ川を部分的に堰き止めて近隣の洪水に影響している既存の固定堰を、ゲートの開閉が可能な可動堰に置き換えることである。

この可動堰は、首都コロンボとその近郊に住む約100万人に水を供給する浄水場において、乾季に塩水が取水口に浸入することを防ぐことを目的としている。河川の流量が多い時には、堰のゲートを開放し、既存の固定堰よりも円滑に水を下流に流すことができる。

このような可動堰はスリランカで多くみられるが、ケラニ川を横断する幅110メートルのこの堰は、機械的に作動するゲート式水理構造物としてはスリランカ国内最大級となる。このため灌漑省は、建設が始まる前に詳細設計を検証し最適化するために水理模型実験を実施することにした。

幅1.2メートルの実験水路に作られたゲート模型上の流れ。
幅1.2メートルの実験水路に作られたゲート模型上の流れ。

数理モデルやAIがバーチャルな世界で様々なものをシミュレーションできる時代になったとはいえ、堰やダムのような水流を制御する水理構造物に関しては、構造物の縮小模型を使った実験(一般に水理模型実験と呼ばれる)が今でも盛んに行われていて、複雑な水理構造物の設計には欠かせない。ケラニ川の場合、水理模型実験によって、計画されている可動堰が河床や河岸の土砂堆積や浸食パターンにどのような影響を与えるか、また浸食防止のためにどのような追加的な対策が必要かをよりよく理解し、設計の改善に生かすことができる。

世界銀行が融資するプロジェクトで建設が予定されているこの可動堰の設計のため、世界銀行は2023年の夏にスリランカ灌漑省の技術者を日本に招き、大規模な水理構造物がどのように水理模型実験を用いて試験・検証されるかを実際に体験する機会を提供した。複雑な水理構造物には高い性能と信頼性が必要であり、日本では何十年もの間、そのような構造物が数多く建設され、安全に運用されてきた。この研修は、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の日本-世界銀行防災共同プログラムからの財政的支援と、東京防災ハブからの技術的支援を受けて実施された。

研修に参加した技術者は、水理模型実験の理論を学んだだけでなく、幅1.2メートルの水路を用いて、計画されている可動堰を簡易的に模倣したゲート構造の水理模型実験を行い、学んだ理論を実際に適用することができた。参加者は、水位と流量が異なる条件をテストし、構造物付近の水の流れや土砂堆積パターンを観察することで、設計をどのように最適化できるかを検討した。

また、水理模型実験によって設計が検証された2つの大規模な都市型洪水調節施設を視察した。ひとつは横浜の鶴見川多目的遊水地で、84ヘクタールの広さを持ち、オリンピックサイズのプール1,500個分に相当する390万立方メートルの水を貯めることができる。鶴見川の高水は洪水を引き起こす前にこの遊水地に流れ込み、隣接する住宅地に水が溢れることを防ぐとともに、鶴見川下流にある大都市の横浜を守っている。もうひとつは、東京近郊の地下にある世界最大級の延長6.3kmの首都圏外郭放水路である。この地下放水路は、巨大なコンクリート製の支柱(浮力に逆らって構造物を押し下げるため、1本あたり500トンもの重量がある)で、洪水に脆弱な近隣の低地からの洪水を貯留し、容量の大きい江戸川へと流すことができる。この巨大な柱から、この建造物は「地下神殿」と呼ばれている。

東京近郊にある「地下神殿」と呼ばれる放水路。巨大なコンクリートの柱があり、低地に位置する近隣地域からの表流水を貯留し排水することができる。
東京近郊にある「地下神殿」と呼ばれる放水路。巨大なコンクリートの柱があり、低地に位置する近隣地域からの表流水を貯留し排水することができる。

重要な社会インフラである水理構造物を強靭で安全に建設・運用するために、設計段階で水理模型実験の適用を考慮することは非常に重要である。


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