2011年の震災後、営業を再開した仙台国際空港
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2011年3月、東日本大震災が日本を襲い、犠牲者と行方不明者の数は2万人近くにおよびました。宮城県の県庁所在地で東北地方の経済の中心である仙台は、震災により大きな被害を受けました。約50万人の市民が水道を利用できなくなり、仙台市の下水処理場は津波により水没しました。また津波により東北地方沿岸の鉄道施設325㎞が損壊し、高速道路約100㎞が浸水したことで、支援が必要な内陸部の被災地への交通手段は瞬時にして断たれました。
震災から4年後、地震と津波からの復興の努力が続く中、民間企業コンソーシアムが30年間の仙台空港の運営権(コンセッション)を取得し、国内で初めて民間企業が運営する空港が誕生しました。この成功は政策立案者と官民パートナーシップ(PPP)の関係者に驚きを持って迎えられました。民間の事業者がどのようにして、自然災害の多い地域での長期にわたる投資の意思決定を行なうことができたのでしょうか。
官民パートナーシップ(PPP)を通じて、政府はインフラ投資への資金、運営管理スキル、自然災害に対処する専門知識を提供できる民間セクターのパートナーと手を組むことが可能になります。民間資金の活用は特に、自然災害が多く、基本インフラへのアクセスが充分ではない途上国で重要な意味を持ち、また世界銀行グループの 開発資金を最大化していくアプローチ(Maximizing Financing for Development)と一致するものです。
災害・気候変動リスクは、インフラ・プロジェクトに内在するリスクであり、民間投資を呼び込むには適切な管理が必要です。日本の経験は、災害リスクをどのように管理し、またPPPの下で災害対策と緊急対応策がいかに強化されたかに関して知見を与えるものです。たとえば仙台市はValue for Money分析(支払に対して最も価値の高いサービスを供給するという考え方)に際し、(i) プロジェクトを公共事業として運営する場合と、(ii) 民間事業者がBOT方式で、緊急対応を含む、施設の建設・運営を行なう場合、の2つの事例について、災害リスクと強靭性を含める画期的な手法により比較検討しました。仙台市は災害対応に関する自治体の人的資源と時間の節約という点で、PPP(BOT方式)は地方自治体による従来の公共事業よりも利点があるとの結論を導きました。
また、過去の災害から得た教訓を元に、仙台市はPPP契約において数値的基準を設定したより明確な不可抗力条項(例:震度6.5以上の地震により不可抗力条項が発動)を導入しました。これは民間事業者にとって、(i) 災害リスク管理に関する不確定要素を減らし、また、(ii) 計画段階での減災対策の検討と、(iii) 発災時の迅速な災害対応の実行を促すものとなりました。
さらに民間セクターの防災への投資を促す措置として、仙台市は施設が2005年の宮城地震の教訓を元にした仕様と性能基準を満たしておらず、施設に不備があった場合に、民間事業者の契約金額を減額する方針を策定しました。
民間セクターが運営する関西国際空港へのアクセス道路
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この事例で得た教訓は、世界銀行が最近発行したケーススタディー報告書 「強靱なインフラPPP: 日本の経験から学ぶ」にまとめられています。報告書は政策と法的枠組み、プロジェクトの仕組み、調達、資金調達と保険の役割など重要なトピックを幅広く取り上げ、以下に挙げる強靭なインフラPPPを整備する上での主な課題についても検証しています。
- 官民セクター間での効果的なリスクの特定と分担
- 不確定要素が存在する中での長期PPP契約の管理
- 強靭化への投資の費用に対するプロジェクトの商業的および財務的な実行可能性の確保
防災対策とインフラ整備を監督する政府は、技術的・商業的に実行可能なインフラ強靭化へ民間投資を促すために、その方法を特定し、実行に移す必要があります。政府、民間セクター、国際開発金融機関、その他の関係者間の効果的なコミュニケーションを実現するプラットフォームであるGIFは、東京防災ハブと 世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)と協働し、強靭なインフラPPPを実現するための有効な対話と実行を支援する機関として機能しています。
関連資料 :
Solutions Brief on Resilient Infrastructure PPPs – the Case of Japan
Engineering our way out of disasters – the promise of resilient infrastructure
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