1年前、まだ新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる前、私は世界の貧困がこのまま減少していくものと楽観視していました。極度の貧困率が20年以上にわたり着実に低下していたからです。最貧困国は、債務などの困難な課題を抱えていましたが、貧困との戦いが順調に進んでいたので、未来は明るくなるという大きな期待がありました。その期待は今も変わりません。
新型コロナウイルス感染症はわずか1年の間に貧困・脆弱国に特に大きな打撃を与え、数十年にわたる取組みの末にようやく達成した成果を損ないかねない ばかりか、世界銀行のグループ機関である国際開発協会(IDA)の支援する最貧国でこれまでの格差をより一層拡大させています。そのためIDAは流行拡大を受け、74のIDA支援対象国に対する財政支援の規模を迅速かつ大幅に拡大し、IDA第19次増資(IDA19)で確保された820億ドルの約半分を前倒しで提供するなど、取り組みを強化しました。
しかし残念なことに、こうした国の多くで我々の努力は、新型コロナウイルス感染症関連の経済的圧迫が続く中、十分ではありません。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」によると、最貧国の外部資金ニーズは2021年末までに、過去5年間より670億ドル以上多い、対GDP比3%まで増えるとみられます。
年が明け、ワクチンについて明るいニュースがもたらされましたが、IDAは引き続きパートナー機関と協力して、感染症の世界的拡大による公衆衛生上の危機と経済的危機への対応を続けています。IDAが支援するいずれの地域やセクターのプロジェクトも成果を上げつつありますが、まだ十分ではありません。
強靭な回復という喫緊の共通目標達成を目指すに当たり、慎重な配慮を要する以下の5つの課題が急速に浮かび上がってきています。
- 新たに数百万人の貧困層が支援を必要とするようになる。現在、新型コロナウイルス感染症により2020年に新たに貧困状態に陥った人は1億1,900万人から1億2,400万人に上るとみられる。また、多くのIDA支援対象国が、ほかの途上国と比べ、危機の影響を大きく受けている。課題として挙げられる点は、雇用や所得のさらなる損失、より困難となる基本的な社会サービスへのアクセス、ジェンダーに基づく暴力が増加などである。特に、女性と障害者はこうした影響を過剰にこうむっている。極度の貧困削減の2030年目標を達成しようとするのであれば、一層の取組みの加速が必要である。
解決への取組み:IDAは新型コロナウイルス感染症への持続的対応のために財政支援拡大を続ける一方、最貧国の長期的な開発目標達成に向け、環境により優しく、これまで以上包括的で強靭な回復を図っている。さらに、新型コロナウイルス感染症対策として拡充された多くのプロジェクトの中でも、ガーナ教育成果への説明責任プロジェクトを通じ、障害を持つ子供たちのためのアクセス改善と学習成果向上を進めている。サヘル女性のエンパワーメントと人口ボーナス・プロジェクトは、暴力のリスクを抱えた脆弱国において、青年期の女子やそのコミュニティを対象として進められている。
- 食料危機が広がりつつあり、早急な対応が必要である。世界食糧計画(WFP)により、新型コロナウイルス感染症により、2020年末までにIDA支援対象国で9,600万人が深刻な食料不足に陥ると予測されていた。今後12カ月間に食料危機に陥るリスクが特に高い地域は、アフガニスタン、ブルキナファソ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ハイチ、ニジェール、ナイジェリア、ソマリア、南スーダン、スーダン、イエメン、ジンバブエに集中している。こうしたデータは、今後、世界の最貧国において人的資本の開発と栄養状態に深刻な影響が及ぶことを示唆している。
解決への取組み:IDAは食料安全保障に対し、2021年3月末までに新たに53億ドルの支援を誓約している。さらに、多額の追加資金を確保できれば、はるかに多くの支援が可能となる。喫緊の食料安全保障上のニーズを満たすための措置としては、セーフティネット・プログラムの拡充、食料の供給続行、食料の配布とアクセス向上、雇用と生活の維持、アグリビジネスや小規模事業の支援が挙げられる。
- 対外債務過剰のリスクが大きな国は複合的な課題に直面している。2020年は、感染症の世界的流行への対策として、 財政政策の余地と財政刺激策の拡大が求められた1年だった。それでも、IDA支援対象国ではこの1年間に基礎的財政収支の赤字が大幅に増えた。債務持続面の脆弱性の高まりが同時に債務過剰による格付引き下げのリスクを意味する国の場合、持続的なグラントの提供が不可欠になる。
解決への取組み:IDAは、最貧困・最脆弱の国や人々に、債務返済分をはるかに上回る資金が渡るよう支援している。 世界銀行と国際通貨基金はG20諸国と共同で債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)を実施し、各国が数百万人の最脆弱層の命と生計を守るために資源を集中投下できるよう支援している。同イニシアティブは、2020年5月の開始以降、40以上の適格国(1カ国を除きすべてIDA支援適格国)を救済するため約50億ドルを提供している。さらに、IDAの持続可能な開発融資政策の下で、IDA支援適格国による透明で持続可能な資金調達への移行を奨励している。
- 新型コロナウイルス感染症により小国における成長が最大24%縮小している。小国への影響が壊滅的であることは、税収や送金の減少、自然災害による感染症拡大への影響悪化、観光産業の崩壊等、様々な要因で説明できる。例えばセントルシアやモルディブといった観光業に依存する島国では、総生産高がそれぞれ17%、19%減少している。一方、脆弱・紛争国はより多くの問題に直面し、それが隣国にも波及するリスクがある。事実、国際社会がただちに行動を起こさない限り、今回の危機により、2021年には、紛争の影響下の推定1,700万人から2,600万人が新たに極度の貧困に陥るとみられる。
解決への取組み:IDAは引き続き、成果連動型配分システムと、配分ウィンドウを活用している。前者は、ニーズと成果に応じてすべての国がIDA資源の恩恵を受けられるようにするもので、後者は、2000年代終盤の世界規模の金融危機や2014~15年の西アフリカでのエボラ出血熱の大流行のような大規模な危機の際に各国を支援するもので、危機対応ウィンドウ等がこれに当たる。今回の新型コロナウイルス感染症による危機はこれまでになく幅広く根深いが、支援拡大のメカニズムは過去の危機への対応の経験を踏まえて設計されている。
- 最終的には、強靭で、環境により優しく、これまで以上に包括的な回復を目指すべきだ。 新型コロナウイルス感染症は、これまでIDAが経験したショックの中で最も根深く、同時多発的で広範囲に及ぶ。だが、だからこそ課題と同時に機会ももたらしていると言える。課題は、開発成果に対する過去に例のないダメージを早急に修復する必要があることだ。機会は、感染症の世界的流行や気候変動といった将来のショックに対する強靭性を強化することで変わってしまった世界にも適応できるようになることだ。そのためには、多くの人が再び働けるようにし、平等を確保し、マクロ経済、環境、社会の持続可能性を達成するためのソリューションを見出さなければならない。
解決への取組み:IDA19の一環として実施中のプロジェクトは既に、そうした回復を加速させるための確かな基盤となっている。IDAは、各国が市場を創出して活用し、危機に対応しつつ低炭素型社会への移行を支援するツールを提供し、ジェンダーの平等達成に向けた取り組みの強化を図るなど、いくつものソリューションを実施している。
今回、上記5つの課題を挙げることで、世界の最貧国における強靭な回復に向けた道を提示しています。将来の世代のために、我々が力を合わせることが求められています。
関連項目
国際開発協会(IDA)のTwitterをフォローする(英語) @WBG_IDA #IDAWorks.
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