貧困削減と持続可能な未来構築のための意思決定と投資の根拠として、データは開発に不可欠です。ところが、低・中所得国の大半では国の統計システムの資金が不足し設備も整っていないため、健全な意思決定に必要なタイムリーで詳細かつ政策の根拠となるデータを提供できていません。従来型の調査は、特定の時点に限られ、頻度が低く、費用がかかることが多いため、とても速いペースで変化する経済や社会の変化に追いつくのは難しい状況です。
データの重要性がこれまで以上に高まる中、ある踏み込んだ問いについて考えるときが来ています。民間セクターをデータのユーザーだけではなく、投資と構築の主体、そしてパートナーとしても検討すべきではないか、です。我々が必要とする統計システムはリアルタイムでデジタルファースト、相互運用可能でなければならず、多くの場合、民間部門だけが提供可能な資本集約度、リスク選好度、イノベーション能力を条件としています。
民間部門は、データ生成システムを構築・運用するためのツール、資本、それにインセンティブを備えるようになってきています。 クラウドベースのプラットフォーム、人工知能(AI)による分析、衛星インフラなど、民間企業は開発データに革命をもたらすテクノロジーの最先端を走っています。
データをめぐって民間セクターと提携することで、透明性と適時性が向上するだけでなく、新たな労働市場が開かれ、熟練を要する仕事の需要が高まり、企業は実際のニーズに沿ったサービスを設計できるようになります。成果重視のパートナーシップを構築すると、フィードバックループが生まれ政策と企業利益の両方に利益をもたらします。
データは業務に必要不可欠
堅固な国家データシステムは、単なる公共財にはとどまらず市場財と言えます。信頼性が高く細分化された最新データは企業にとって、フロンティア市場への進出、強靱なサプライチェーンへの投資、また包摂的な金融サービスの設計といった業務に不可欠です。
企業にとって利益となることは明確です。新しい市場の開拓、ターゲットを絞り込んだ製品の設計、データが豊富な環境での運用コストとコンプライアンスコストの削減が可能になるのです。 不確実性が高く、極めて局地的な市場しかない途上国の場合にこの傾向は顕著です。
データ不備のコストは甚大です。海外開発研究所の調査は、データの不備のせいでアフリカ経済は年間国内総生産の最大2%を失っていると推定しています。民間セクターにとっては、デューデリジェンスコストの増加、規制リスクの拡大、市場投入サイクルの長期化を意味します。
これまでとは違う望ましい成果
国のデータシステムの一般的モデルは、世帯調査や国勢調査など従来の調査方法に大きく依存し、発表は5年から10年に一度である上、12〜24か月の遅れがあります。そのため政府や投資家は、最新ではない地図や重要な部分が欠けたままのデータを運用せざるをえません。これに代わる新しいデータシステムは、こうした従来のシステムを基盤としつつ、今日の開発課題へのより効率的な対応に緊急に必要とされるデータを生成するものでなければなりません。
世界銀行グループは、国の統計戦略の近代化、情報通信技術インフラの機能向上、AI対応可能な規制環境の構築において各国を支援しています。 我々の業務用ツールキットは、成果重視の資金調達、近代化に向けた協調融資のためのブレンド型プラットフォーム、民間セクターが提供するデータをサービスととらえるモデル、そしてキャパシティビルディングのためのものです。とは言え、我々だけで実現できるわけではありません。我々が求めているのは、民間セクターが、信頼されインセンティブを備え説明責任を果たすパートナーとなり公共財としてのデータ提供に貢献する新しいモデルです。
より優れたデータシステムとは、モジュール式でリアルタイムかつユーザー中心である必要があります。つまり、特定の時点で収集されたデータから連続的で動的なデータストリームへ、孤立し共有されないデータベースから相互運用可能なプラットフォームへ、アナログ方式からデジタルファーストでクラウドベースのインフラストラクチャーへの移行が求められています。
この転換は、資本集約的でペースが速く、官僚的な制約を受けた公的機関にはなかなかみられない技術的専門知識に大きく依存するものとなるでしょう。いずれも高いパフォーマンスを誇る民間企業の特徴です。官民のデータパートナーシップでは、政府による監督と正当性に、民間セクターのスピード、資本、イノベーションを組み合わせ、それぞれの比較優位を活用する必要があります。
民間セクターが構築したテクノロジーが迅速で詳細かつ実用的なデータを提供できるという革新的な事例はすでに数多く確認されています。例えば、インドネシアでは、統計機関がベイジアン小地域推定とAIインピュテーションを用いて、衛星画像と国勢調査のマイクロデータを組み合わせた地区レベルの貧困マップが作成されています。コロンビアでは、グーグルアースエンジン上に構築された地理空間分析を使用して、土地劣化を追跡し、農業補助金配分の参考とされています。トーゴでは、コロナ危機の間、ノビッシプログラムの下で、詳細な通話記録の機械学習と衛星画像から割り出した貧困分布に基づき緊急の現金給付が実施されました。
データと雇用のための新協定の策定
民間セクター投資の活性化に切実に必要なのは、公的機関と民間団体が国のデータシステムに共同投資する、開発と雇用のための新しいデータ協定です。主要なピラーとして、以下を含める必要があります。
- 統計のための共同投資基金:ベンチャーキャピタル、財団、開発金融機関が重要なデータインフラに共同で資金を提供する特別目的会社。
データ品質基準:データ品質基準を強化して、データの信頼性と AI の即応力を促進。
データイノベーションのアクセラレーター:スタートアップ企業、学術研究所、業界パートナーと共同でツールを作成する部署を統計担当機関内に設置。
リアルタイムのデータプラットフォーム:オープンなアプリケーションプログラミングインターフェースとクラウド環境に最適化されたシステムにより、多様なデータストリームの継続的な統合を実現。
共有使用に関するガバナンス:私的使用可能なシステムに対する公共の信頼を確保するための、データプライバシー、相互運用性、説明責任に関する合意。
成果重視の調達:データの品質、アクセシビリティ、インパクトの向上に応じて企業が報酬を受け取る成果連動型支払いモデル。
政府は引き続き公的な統計の重要な管理者としての役割を担いますが、今後の総合データシステムでは、エネルギーグリッドや通信ネットワーク同様に、民間セクターのプレーヤーとの共同での構築、管理、出資が進められます。今こそ、こうした変化を受け入れ、民間セクターの力を解き放ち、世界中の人々の生活向上に向けたデータ活用のあり方に大きな変化を起こすべきときが来ています。
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