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太平洋島嶼国地域のモジュラー橋:気候変動に備えたソリューション

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A modular bridge leads to a house in Solomon islands to offer an opportunity to increase climate resilience and safety for rural communities A modular bridge leads to a house in Solomon islands to offer an opportunity to increase climate resilience and safety for rural communities

橋は交通網の重要な要素であり、太平洋島嶼国地域の経済成長や社会的結束に大きく貢献しています。橋が通行不能になると、コミュニティは孤立し、経済活動は停止してしまいます。しかし、橋は自然災害や気候変動に脆弱で、特に南太平洋の島国であるソロモン諸島では、その影響が顕著です。同国は年間降水量が3,000~5,000ミリメートルあり、降水量の多い上位10カ国に入るほどです。

気候変動や自然災害の影響が加われば、重要なインフラが甚大な被害を受けたり、損壊したりする現実的なリスクがあります。ソロモン諸島のインフラ開発省(MID)は、費用と長期性能のバランスを取りつつ、劣化した橋梁インフラを架け替えなければならないという大きな課題に直面しています。

2019年、「ソロモン諸島における道路・航空プロジェクト(SIRAP)」が承認され、革新的な橋梁技術であるプレハブ式モジュラー橋(図1)を検討する機会が訪れました。このプロジェクトでは、道路や橋の持続可能性と気候変動に対する強靭性を強化することを開発目標のひとつとしています。日本政府が出資している「質の高いインフラ投資(QII)パートナーシップ」からのグラント資金により、SIRAPの下でモジュラー橋の実施可能性・設計・調達に関する詳細な検討が行われました。このプロジェクトは、経済効率の向上、環境・社会配慮の統合、自然災害に対する強靭性の構築など、質の高いインフラ投資に関するG20原則を適用した好例となっています。

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モジュラー橋を選ぶ理由

モジュラー橋には、従来橋と比較して多くの潜在的なメリットがあり、特に設計・施工期間の短縮が顕著です。 工事に伴う道路閉鎖期間も短くなります。また、作業員の安全リスクや周辺環境への影響も軽減することができます。

モジュラー橋は、気候変動への対応の仕方を変革させることもできます。災害でインフラが影響を受けたとしても、より良いものに作り直すことで、インフラの強靭性を高める機会が生まれます。  また、仮設橋による暫定的な復旧ではなく、モジュラー橋による恒久的なインフラに直接移行することで、災害後の復興を加速させることもできます。

また、モジュラー橋は、より多くの業者が橋の架け替えを請け負うことができ、社会的・経済的にも大きな利益をもたらします。同技術の背景にあるコンセプトは、先進国では実証済みですが、大半の途上国では新たな試みになります。

アセスメント及び案件の実施 

QIIパートナーシップによるグラント資金は、太平洋島嶼国地域におけるプレハブ式モジュラー橋のアセスメントに充てられました。このアセスメントでは、気候変動に対する強靭性と経済効率性の向上という観点から、(製品が研究開発段階ではなく、調達・施工可能な)市場に出ている19のモジュラー橋を特定し、各利点や制約を評価しました。また、マーケット・エンゲージメント(サプライヤーへの聞き取り調査)を通じて多基準分析を行い、現場特有のシナリオを評価するための決定木マトリックスを作成しました。 

続いて、SIRAPの設計コンサルタントが、ソロモン諸島マライタ州(人口及び面積が最も大きな州のひとつ)のプロジェクトサイトで、モジュラー橋の施工性を評価しました。橋梁と地質の専門家が同評価をレビューした結果、モジュラー橋がこのプロジェクトに適していることが確認されました。さらに、QIIパートナーシップのグラント資金により、首都ホニアラでワークショップが開催され、このアセスメントの結果やSIRAPの支援行動計画が発表されました。

そして、マライタ州で橋の架け替えを行う3カ所が選定されました。当初、1カ所はモジュラー橋、残り2カ所は従来橋にすることが検討されていました。国際競争入札を実施した結果、1社が応札し、その落札者との交渉の結果、モジュラー橋2基の建設が決定しました。2021年11月にMIDとReeves Envico社との間で契約が締結され、18カ月間でモジュラー橋2基が建設される予定です。

得られた教訓 

これらの調査と調達過程を通じて、太平洋島嶼国地域の他の国々にも適用できる貴重な教訓を得ることができました。

  • モジュラー橋が常に最善の解決策とは限らない。モジュラー橋を採用するかどうかの決定には、対象箇所の地質・水理条件が重要な役割を果たします。早い段階で現地を視察することで、決定に影響を与え得る条件や制約についての知見を得ることができます。
  • ロジスティクスの複雑さを考慮する。輸送のしやすさ、部材重量、現場での作業量は、橋梁プロジェクトを成功させる上で重視すべき事項です。
  • オーバースペックを避ける。橋梁の仕様を決定するには、現場の状況を考慮する必要がありますが、柔軟な仕様オプションを持たせることで、モジュラー橋の選択肢が広がります。
  • 早い段階からサプライヤーとやりとりをする。モジュラー橋のサプライヤーを早い段階で関与させることで、より良い調達プロセスにつながり、また調達プロセスでの協働がより良い設計につながります。デザインビルド方式により、これらの制約に対処することができます。

この調査は、橋の架け替えにおける意思決定プロセスにおいて極めて重要なものになりました。新しいモジュラー橋は、農村コミュニティと市場や雇用、そして医療や教育といった必要不可欠なサービスをつなぐ役目を果たします。MIDは現在、最近承認された「ソロモン諸島における道路・航空プロジェクトフェーズ2(SIRAP2)」の下で、マライタ州の他4カ所でモジュラー橋の採用を検討しています。同様の課題に直面している他の太平洋島嶼国も、この事例でのアプローチや教訓から学ぶことができるでしょう。 

テクニカル・ガイダンス・ノート: Implementation of Innovative Bridge Technologies: Technical Guidance Note.

関連項目:
太平洋島嶼国における持続可能な洪水リスク管理への道のり (英語)
ソロモン諸島での電力供給は、信頼性が高く、手ごろな価格のエネルギーが課題 (英語)


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