アフリカ各国は今後10年間、食糧安全保障を優先課題と位置付けて取り組んでいく必要があります。 気候変動の影響や農業生産性の低下、そして急速な人口増や都市化により状況は一段と複雑になっているからです。ただし、この優先課題がアフリカと国際社会の共同の取組みに反映されていることは心強い限りです。例えばアフリカ連合加盟国は既に、包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)の下、2025年までの飢餓撲滅に力を注いでいます。同様に、国連持続可能な開発目標(SDGs)では、2030年までにあらゆる形態の飢餓と栄養不良を撲滅することが目標2に掲げられています。ほかにも数々のコミットメントがあるものの、大きな進歩は見られず、2025年までに栄養不良率を5%以下にまで削減できそうな国はアフリカ55カ国の内9カ国にすぎません。そのため一層の努力が必要となりますが、今後は、科学技術やデジタル技術を駆使して脆弱性に対応する政策が大きく貢献すると考えられます。
気候変動適応型の農業に向けて科学技術を活用
気候変動は既にアフリカの農業生産に影響を及ぼしており、将来的に状況は悪化するとみられています。 干ばつの頻度は、1982~2006年には12.5年に平均1回だったのに対し、2007~16年には2.5年に1回へと大幅に増えています。こうした干ばつは一層深刻化かつ長期化し、土地生産性を低下させています。気候リスクはこれだけではありません。安定しないまま減少する降水量、雨季の短期化、病害虫の増加などもあります。今後10年間にアフリカの穀物生産高は2桁近く減少し、食糧価格が2桁近く高騰する恐れがあるとする試算もあります(図4.5)。ほかの指標も含めこうした動きの影響は2080年までにさらに深刻化するとみられています。現在、気候変動適応型の農業が行われている国では、食糧安全保障と強靭性の強化がみられています。 例えばルワンダでは、丘陵地灌漑整備計画が浸食抑制、既存の土地の収量増加、干ばつからの保護強化に貢献しています。同計画の下で、2009~18年の間にメイズ(白トウモロコシ)の生産は2.6倍増え、マメ、小麦、イモはそれ以上に増えました。
セネガルでは、西アフリカ農業生産性向上プログラムにより、ソルガム、キビ、落花生、ササゲなどの、成長が早く灌漑に強い多収性の新種が開発されています。こうした種が広く農家に配布されており、その結果、降水量がこれまで以上に少なく不安定であるにもかかわらず、生産高が平均30%も伸びています。2014年には雨季の始まりが遅れた上に平均の半分の降水量しか得られなかったものの、ソルガムとキビの改良種の生産高は増加しました。科学の力は、食糧安全保障のための持続可能なソリューション提供に計り知れない可能性を秘めています。 例えば、気候変動により効果的に適応するためのイノベーション、生産資源(土地、土壌、水)の科学的な管理、フード・ロスを減らすための食糧の貯蔵可能性と輸送可能性等が挙げられます。科学を有効活用するには、科学的ソリューションをパッケージへと転換し、広く農民に配布し農家と地域の両方で導入できるようにする必要があります。そのためには、国際・地域・国の科学機関を農民や専門技術普及システムと効果的に結びつけることが求められます。また、こうしたソリューションを研究者と農民が協力して編み出し、現地での強靭性強化に需要主導型かつ知識を駆使して対応できるようにする必要があります。
デジタル技術の活用:専門技術の普及は、農民に新しいスキルを身に付けさせ労働・土地生産性を高めるという意味で是非とも必要です。ただし現状では十分でないことも多く、変化を続ける農民のニーズに必ずしも応えていない場合もあります。デジタル技術にはこうした問題を解消できる可能性があります。気候リスクのモニタリングにデジタル・ツールを使えば、事前に気候危機の発生を察知し、強靭性強化を進めることが可能です。自動化された灌漑システムや土壌センサー、ドローンは、農業生産の効率向上に貢献します。デジタル・ツールはまた、食糧の安定供給とアクセスしやすさを高めると共に、食糧危機を効果的にモニタリングして食糧の有効活用と安全性向上に役立ちます。 Eコマースのプラットフォームがあれば、自作農をバリューチェーンに組み込み、需要特定、価格決定、サービス提供の効率性向上といった取引コストを削減できます。農民の暮らしを大きく変えるためにテクノロジーが果たす役割については、世界中でいくつもの例が示す通りです。例えば現在、ハロー・トラクターという仕組みがテキスト・メッセージを使ってトラクターの所有者と農家を結びつけています。これまではトラクターは購入せざるを得ない、または一切アクセスできなかった農民も、この仕組みを通じてスムーズに借りることができます。現在、 ナイジェリア、ガーナ、ケニアで実に 50万人以上の農民にサービスが提供されており、その内、約60%の農民が生産性が向上したとしており、90%以上が生活の質全般が改善したとしています。デジタル・グリーンやプランティックスといったプラットフォームは、農民が作物の品質をモニタリングするための新たなスキルを習得しやすくすることで、農業生産性を大幅に高めることが可能です。プランティクスが提供する分析・モニタリング用のツールを用いてユーザーが病気の作物の写真を共有すると、病気や害虫、栄養素の欠乏が特定され、その情報がユーザーに送り返されます。そうしたテクノロジーは、食糧バリューチェーン全体の生産性向上に直接役立っています。
脆弱性を防ぎ、食糧安全保障への影響に対処する:栄養不良の蔓延は、紛争の影響下にある地域では約2倍も深刻です。 紛争が食糧安全保障にもたらす影響には、農家レベルでの農業生産活動の混乱、販売や貯蔵など収穫後の管理機能の弱体化、貧困家庭がショックから立ち直る力の低下などがあります。紛争は、地域・国レベルの組織にとって負担となり、その結果、農業サービスや公共インフラが損なわれ、農家レベルや食糧システムの下流への投資が減少します。紛争や脆弱性を招く農業関連の要因やその影響に対処するのでない限り、アフリカの食糧安全保障の問題を解消することはできません。その意味で、紛争地域での天然資源をめぐる競争、特に牧畜民と農産物栽培農家の間の競争は管理が必要です。とは言え、紛争の影響下にある脆弱地域に部外者が働きかけることは困難な場合があります。そこで、コミュニティ・ベースのアプローチの設計・実施を可能にするため、現地の組織の機能を強化することが重要です。気候変動や一部の国の脆弱性といった問題があるにもかかわらず、アフリカ大陸には、食糧・栄養の安全保障を達成できるだけでなく、食糧セクターの強化を通じて開発全般を促進できる可能性があります。
本記事は最初、ブルッキングス・アフリカの成長イニシアティブの年次最重要報告書 Foresight Africa に掲載された。報告書全文を読むには、こちら 。
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