押し寄せる洪水に人や車両が立ち往生し、職場は水浸しになり、移動手段が途絶され、その他のサービスへのアクセスは断絶される。気候変動の時代においては、これがインドネシアの成長する都市での普通の光景になってしまうのでしょうか。私たちはそうは思いません。リスク情報を活用した都市計画および革新的対策により洪水リスクに対応する新たなアプローチが採用され得るのです。
過去20年にわたりインドネシアでは、洪水が他のどの災害よりも多くの被災者を出しており、甚大な被害を及ぼし、地元および地域経済を混乱させてきました。 2019年だけでも、南スラウェシ、パプア、ブンクルで220人以上が亡くなっており、被害額は推定1億2,800万ドルとなっています。
洪水の被害をもろに受けているのが貧困層と脆弱層であり、脆弱なエリアに住み、洪水の影響から立ち直る資産が乏しいことが主な原因となっています。 さらに、洪水が頻繁に起こっている地域では、リスク情報を活用した計画法および建築基準法への配慮が不十分なために、往々にして質の悪いインフラが構築されています。
都市部は、人口および資産が高度に集中し、河川や沿岸部に近いことで洪水の影響を特に受けやすくなっています。 雨期の豪雨、海面上昇、無秩序な都市開発の進行水準、土地活用の変化、森林破壊、地盤沈下のすべてが都市型洪水リスクの増大につながっています。インドネシアの92都市で報告された洪水の発生件数は2006年の50件から2017年には146件へと3倍に増加しました。
世界銀行の最近の分析では、インドネシアにおける河川洪水の被災者人数は2015年と比べ2055年には75%増加するとみられています。
都市は従来、堤防、ポンプ基地、ダムなど「グレー」な人工的な洪水対策への公共投資に依存してきましたが、現在の都市化および気候変動の影響により以下のような新たな革新的アプローチが求められています。
- 世界各国の多くの都市が推奨する自然を基盤として環境に配慮したアプローチ。このアプローチは、水(雨水、地下水、排水)をその場、公共の場、空き地に留めて再利用またはろ過することができる資源としてとらえるものです。豪雨が都市部の排水システムに及ぼす負担を軽減し、持続可能な水路の維持、都市アメニティの改善に関連するさまざまな方面で便益をもたらすことができます。よく見られる手法として、透水性舗装、レインガーデン、雨水の貯水タンク、遊水地、湿地帯、くぼ地、多目的貯水池、その他のグリーン・インフラ・ソリューションがあります。
- 都市型洪水に対する強靭化のための優先度の高い投資に特化した資金調達の仕組み(シンガポールのABC Waters Programme – 以下参照 – 中国のスポンジシティ計画など)。グリーンボンドや土地開発利益還元(LVC)などの革新的な資金調達オプションで補完されます。進行中の事業およびメンテナンス費用の現地レベルでの資金調達は、洪水リスク軽減を目的としたローカルサービス料金の導入、および民間セクターの参加により実現が可能です。
- 構造的対策(浚渫 [しゅんせつ]、水路、ポンプ基地、水門、排水システム、小規模な地域主導の取組、自然を基盤として環境に配慮したソリューションなど)と、非構造的対策(リスク情報を活用した土地利用計画、建築基準、ハザードマップ作成、リスクモニタリング、予測、早期警報システム、災害のリスクファイナンス、地域の啓発活動および教育、能力強化など)のバランスのとれた統合。世界銀行は、すでにラオスおよびフィリピンなどの国々でこうした対策を統合したプロジェクトの支援を行っています。
- ステークホルダー(政府、非政府/コミュニティ組織、一般市民など)とのデザインワークショップ「シャレット」、またはミニ・スタジオの活用。これにより参加者があらかじめ定められた条件(洪水ハザードマップ、豪雨による流出雨量の計算など)と、住みやすさと持続可能性を広く視野に入れたまちづくりに基づいたデザインに取り組むこと促します。東京で開催された第2回 総合的な都市洪水リスク管理に関する分野別実務者研修会合(TDD)でのミニスタジオに続き、インドネシアの政府関係者とも同様の演習を実施し、選択された都市に特化した総合的な都市型洪水に対する強靭化の介入策を作成しました。
2019年7月、国家開発企画庁(Bappenas)はワークショップを開催し、5都市(アンボン、ビマ、マナド、パダン、ポンティアナック)の中央政府および地方自治体関係者を招待して国の都市型洪水に対する強靭化計画案について協議しました。世界銀行東アジア・大洋州地域防災チームと東京防災(DRM)ハブがファシリテーターを務めました。この演習を通じて参加者は、豪雨による流出雨量を減らすためにどのような、自然を基盤として環境に配慮したソリューションを適用したら最善か話し合いました。豪雨による雨水利用ソリューション、人口湿地帯、屋上緑化、浸透性の地面の拡大、レクリエーション機能(川岸に人々がすわって集まれるようなデザイン、水遊びエリアなど)の採用などを取り上げました。スマラン、メダン、ポンティアナックなどの都市ではこうしたソリューションがすでに実施されています(以下参照)。
インドネシア政府と世界銀行は、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)およびインドネシア持続可能な都市化のためのマルチドナー信託基金(Indonesia Sustainable Urbanization Multi-Donor Trust Fund)からの資金協力を得て、連携して上記の検討事項に沿った国家的都市型洪水に対する強靭化計画を作成します。この計画は選定された都市の総体的な洪水に対する強靭化強化を支援して、革新的な自然を基盤として環境に配慮したソリューションと従来のグレーインフラ策を統合し、性差別がなく、障がい者のニーズも考慮した包摂的な開発を促進するものです。
洪水に対する強靭化のための都市計画アプローチは、成長するインドネシアの都市全体にさまざまな方面での便益をもたらすことが期待されています。環境にやさしく、包摂的でより強靭な都市に住むということが、今後はインドネシアにとっての新たな「常識」になるでしょう。
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