ブログチャンネル Voices -ヴォイス-

より良い回復の実現で求められる、インフラ投資の「質」

このページの言語:
??????????????? | © SofikoS, Shutterstock Infrastructure professionals reviewing their plans | © SofikoS, Shutterstock

途上国の累積債務の対GDP比率は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの発生以前から危険な水準にあると言われていました。しかし、真の問題は、債務負担により蓄積した資産の生産性が低いことにあります。これは、次世代が債務のコストに見合う利益を受けることがないことを示しており、こうした状況下では質の高い成長を期待することはできません。

債務をめぐる問題を考察する過程において、いくつかの疑問が浮かんできます。これまで行われきた投資は、質の高い成長を促す資本形成に貢献したのでしょうか。この資本形成は、危機においても持続可能なのでしょうか。

世界銀行は、報告書「世界の富の推移2021(The Changing Wealth of Nations 2021)」の中で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと深刻化する気候変動の影響により、国の富についての概念の再考が促されたと指摘しています。同報告書は、国の貸借対照表として富の会計を採用し、収入を生み人々の福祉を支える全ての資産の価値を考慮するべきだと訴えています。つまり、私たちは、質の高い成長を目指し、人々の福祉の向上につながる生産的な資産の蓄積を推進する必要があるということです。そして、この重要な資産の一つがインフラです。


今日「ビルドバック・ベター(より良い回復)」と呼ばれるアプローチについて、活発な議論が交わされています。ビルドバック・ベターとは、一言で言うならば、新型コロナウイルス感染症の経済的打撃からの、環境に配慮した強靭で包摂的な回復の実現を目指すアプローチです。より良い回復として質の高い成長の実現を目指して、どのような資産の蓄積が必要で、どのようなインフラ投資が求められているのでしょうか。 

世界銀行は、以前より質の高い成長を重視してきました。2000年に発表した報告書である「成長の質(The Quality of Growth)」では、成長の質の確保に不可欠な開発3原則として、(1)物的資本、人的資本、自然資本という全ての資産への配慮、(2)長期的な分配の側面への留意、(3)グッドガバナンス(優れた統治)のための制度的枠組みの重視、を掲げ、これについて詳細に考察しています。インフラ投資は、このうちの第一の原則に関連しており、基本的には物的資本の一形態です。しかし、質の高い成長のための開発の原則の観点から考えると、インフラ投資は、グッドガバナンス下で人的資本と自然資本の形成を支えるものであるべきであり、また、長期的に公正性の確保に努める必要があります。 

質の高い成長の達成の実現が、インフラ投資の目的です。  日本が議長国を務めた2019年のG20大阪サミットで承認された質の高いインフラ投資に関するG20原則は、まさにこの目的の達成に必要なインフラ投資の指針を定めたものです。また、G7首脳は昨年のカービス・ベイ・サミットでも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックからのより良い回復を実現するためには、これら原則が不可欠であることを再確認しています。

この原則は、質の高いインフラ投資は、経済、環境、社会、そして開発にプラスのインパクトをもたらすことができるよう、包摂性と強靭性を備えていることが必要だと指摘しています。また、インフラ投資の質は、グッドガバナンスを確保した上でインフラ投資を促進することで改善することができる ともしており、たとえば、インフラ調達にかかる透明性の向上による汚職の防止、そしてプロジェクトレベル・マクロレベルでの財務の持続可能性の確保などが重要となります。インフラ投資を通した、テクノロジーや知識の途上国の人々への移転により人的資本の構築を支援することも、質の向上に寄与します。

さらに、自然災害や新型コロナウイルス感染症に対する強靭性を備えたインフラ資産の設計と管理も、質の高いインフラ投資の一環として考えることができます。将来的には、デジタルインフラは不可欠な存在となります。デジタル・ファイナンスや、デジタル医療、デジタル教育をはじめとする多くのサービスで、デジタルテクノロジーが使われるようになります。インフラ制御システムでもデジタル化が進んでおり、サイバー攻撃により、インフラサービスの提供が壊滅的な打撃を受ける可能性もあります。このことから、インフラのサイバーセキュリティリスクの管理も、インフラ投資の質の向上のための一手段であり、これにより危機に強い質の高い成長を確保することができます。これらを背景に、日本は、世界銀行や他のドナーとのパートナーシップで、災害リスク管理サイバーセキュリティリスク管理の主流化に取り組んでいます。

このように、質の高いインフラ投資は、質の高い成長の促進、富の構築、そして福祉の向上に不可欠です。  日本と世界銀行は、質の高いインフラ投資パートナーシップを締結し、質の高い成長を促進するインフラ投資を支援しています。新型コロナウイルス感染症のショックから回復途上にある現在、このパートナーシップは、ビルドバック・ベター・アプローチを支援しています。

今年1月には、質の高いインフラへの投資が、環境に配慮した強靭で包摂的な回復の基盤をどのように築き、また新型コロナウイルス感染症の経済的な影響からの回復をどのように支えることができるかを学ぶ、オンライン・コースを開催しました。このコースへの需要は高く、世界189カ国から8,000人以上が参加しました。インフラ投資の質を考慮することが重要であるという考えは、今後ますます広がっていくと考えられます。質の高い資産を形成し、より良い明日を築く。これこそがインフラ投資に伴う私たちの責任です。 

世界銀行は、政府関係者、多国間パートナー、インフラの専門家、投資家、学界関係者をはじめとする多くの方が、このトピックに関連した知見や関心事を共有する場として、LinkedInに質の高いインフラ投資(QII)に特化した専用ページを開設しました。是非ご活用ください。


開発におけるQIIの役割の詳細は、QII パートナーシップ・ウェブサイトをご覧ください。

 

関連項目

報告書: 質の高いインフラ投資パートナーシップ:2021年度 QII 年次報告書

ブログ: 質の高いインフラ投資:永続的な回復を確かなものにするために(英語)

ブログ: 日本の都市インフラ:質の高いインフラ投資の原則からの教訓

 


投稿者

Tsuyoshi Hara

Advisor to Executive Director for Japan, World Bank

コメントを投稿する

メールアドレスは公開されません
残り文字数: 1000