世界の最貧国で気候変動と戦う

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The Yemen Emergency Electricity Access Project is one of many projects funded by the World Bank International Development Association (IDA) to address climate risk and reach the poorest people, often in isolated communities and fragile settings. Photo: © World Bank
イエメン緊急電力アクセス・プロジェクトは国際開発協会(IDA)の資金による多くのプロジエクトの一つです。IDAはこの他にも気候変動リスクに対応し、都市から離れたコミュニティや脆弱な状況を中心に最貧困層を支援するためのプロジェクトを数多く進めています。
写真:© 世界銀行

2020年、サバクトビバッタの大群がケニア北部まで到達し、70年来で最悪の蝗害をもたらした。農作物が食べ尽くされ、300万人の食料安全保障が脅かされたのだ。政府とコミュニティが新型コロナウイルス感染症の世界的流行への対応に翻弄されるアフリカ、中東、南アジアの最貧国でも、似たような壊滅的被害が発生している。

なぜこのように稀で広範な(かつ現在も続く)大量発生が起きたのだろうか。今回の蝗害の規模と深刻さは気候変動との関連性が指摘されている。つまり、アラビア半島を極度に激しいサイクロンが繰り返し襲い、バッタの繁殖する乾燥地域に豪雨をもたらした。発生したバッタの大群は、低気圧性の風に乗ってアフリカ東部に移動した。ケニアなど、感染症危機への対応に追われていた国々にとって、気候変動がさらなるリスクとして加わった。しかもこの先、状況は悪化し、特に最脆弱層に打撃をもたらすとみられている。

世界全体で25年間にわたり貧困削減が進んできたが、現在の状況は危うい。貧困が増加傾向にあるからだ。  感染症の世界的流行により、極度の貧困状態にある人の数は2020年だけで8,800万人から1億1,500万人に増えたと推定されている。さらに気候変動により2030年までに新たに最大で1億3,200万人が貧困状態に陥りかねない。 

世界が気候変動の問題に対応するため立ち上がらなければ、以前のように貧困削減を軌道に乗せることはできない。最貧困国が気候変動に適応し強靭性を高められるよう支援する必要がある。 具体的には、単に堤防やサイクロンからの避難所を建設すればいいのではなく、保健、教育、清潔な水と衛生へのアクセス、雇用など人々の生活を改善し、命と経済を維持する生物多様性とエコシステムを守る必要がある。 

世界銀行グループの国際開発協会(IDA)は、上記のすべての分野において最貧国支援に力を注いでいる。IDAは10年近くにわたり、途上国からの高まる需要を受け、気候変動を援助の優先課題と位置付けてきた。現在、IDAはすべてのプロジェクトや取組みにおいて気候リスクに配慮しており、都市から離れたコミュニティや、脆弱性・紛争・暴力の影響下にある最貧困層に、パートナーと協力して働きかけている。  例えば:

  • ケニア北部:サバクトビバッタの襲来に対応し被害を受けた人々を支援するため、気候変動に対応した農業プロジェクトを通じて4,300万ドルを提供。同プロジェクトは土壌改良や持続可能な他の土地利用法の導入により農民を支援するもので、現地の人々の生活改善につながるインフラへの投資に向けてコミュニティのエンパワーメントを目標の一つに掲げている。ビリク村では、村人1,000人と家畜9,500頭のために雨水を集めて貯蔵する新たなシステムが作られた。数ある恩恵の中でも、雨水貯蔵システムにより女性と女児が毎日の水汲みから解放されたことは大きい。こうしたプロジェクトはいずれも、北部・北東部ケニアにおいてIDAの支援の下でインフラとサービスへの投資を拡大し、難民や受入れコミュニティを支援するためのより大規模な取組みの一環である。
  • イエメン:長年にわたって紛争が続き、電力へのアクセスがある人は国民の10%に満たない。保健医療、教育をはじめとする数多くのサービスが深刻な影響を受けている。緊急電力アクセス・プロジェクトにより、国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)とのパートナーシップを通じて、保健施設や学校に電力を供給するため太陽光発電システム設置が進められている。同プロジェクトには、5,000万ドルのIDAグラントが提供されており、国内で数百の保健施設を対象に、低温保管が必要な新型コロナウイルス感染症ワクチンを診療所レベルで貯蔵できるようにする予定だ。この他にも、新型コロナウイルスから都市サービスやサバクトビバッタに関連する緊急ニーズへの対応が進められている。
  • 太平洋島嶼国:気候変動に伴い海面上昇、頻度や激しさを増すサイクロンの脅威がある中、IDAは災害への予防対策と強靭性強化を支援している。バヌアツは2020年4月にカテゴリー5のサイクロン「ハロルド」の直撃を受け、道路、病院、学校、民家、農作物、水インフラに壊滅的被害がもたらされたが、IDA資金による災害リスク繰延引出オプション(Cat-DDO)付きの防災開発政策グラントを通じて1,000万ドルの緊急資金に速やかにアクセスすることができた。ツバルもまた、2020年1月にサイクロン「ティノ」による被災後、緊急資金にアクセスすることができた。Cat DDOは、こうした脆弱国における早期警報システム、強靭なインフラ、強靭な財政を支援する世界銀行の太平洋強靭性プログラムを補完している。

このほかにも、IDAは気候変動の問題に直面する最貧困国を多くの形で支援している。こうした最貧国による気候変動との戦いにさらなるイノベーションを取り入れるため、できることや、しなければならないことは多い。例えば、長期的な視点を取り入れること、危機を回避するためにより環境に配慮しより強靭でより包摂的な将来への移行を支援することが挙げられる。  その成否には、数百万人の生活がかかっている。 

本ブログは、世界の最貧国における新型コロナウイルス感染症からの強靱な回復に向けた道筋を探る連載の一部です。最新情報は、以下でご確認ください。@WBG_IDA#IDAWorks

 

関連項目

世界銀行グループの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策への支援