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質の高いインフラ投資が開発にもたらすインパクト

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How Quality Infrastructure Investment is making a difference in development 「質の高いインフラ投資」の戦略的な方向性を示すQII原則 | 画像: Pablo Alfaro, 世界銀行

近年、私たちはインフラに多くのものを求めるようなりました。

インフラとは、電気を作り、安全な飲料水を届け、円滑な輸送を促す、というだけのものではありません。インフラには、気候変動や自然災害への強靭性(レジリエンス)が求められています。また、女性、遠隔地にあるコミュニティ、不利な立場にあるグループを含め、あらゆる人々がインフラの恩恵を享受できることが重要です。さらに、インフラには高い経済的効率性を有し、持続可能な開発を支援する役割も期待されています。こうした背景から、質の高いインフラは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を促進する観点からも重要な取り組みとなっています。

このように、国際社会が目指すべき良質なインフラのあるべき姿を追求することが、QIIとも呼ばれる、日本が推進する「質の高いインフラ投資」のコンセプトです。このコンセプトは、鋼やコンクリートを主材料とした従来型の「グレー」なインフラを超えて、経済成長、効率性、気候、強靭性、包摂性そしてガバナンスといった、質の側面を重視しています。

日本では、都市の無秩序な拡大(スプロール現象)、汚染、壊滅的な地震、経済ショック、インフラの老朽化等の諸問題に対応するため、インフラ投資における質の向上に注目が集まっています。

こうした中、インフラの質はQIIの6原則として体系化され、2019年にはG20の枠組みで承認されました。これら原則には法的な拘束力はありませんが、インフラ投資の戦略的な方向性を示しています。QIIの原則は、気候変動や新型コロナウイルス感染症のパンデミックからの復興の観点からも重要であり、途上国支援において多くの付加価値を提供することが期待されています。 

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画像: Victoria Adams-Kotsch, 世界銀行

しかし、どんなに優れた原則であったとしても、それが「絵に描いた餅」では問題があります。実際のところ、QIIの原則は、開発の現場でどのように適用されているのでしょうか。そして、これらの原則は、経済、社会、環境、そして開発に対してインフラが与えるインパクトを最大化する上でどのような貢献をしているのでしょうか。

2021年、QIIパートナーシップと東京開発ラーニングセンターは、日本の富山市福岡市におけるQII原則の実践に関するケーススタディを行い、その研究結果を発表しました。続いて2022年、QIIパートナーシップは、途上国におけるQII原則の実践について分析を行うため、世界銀行が実施したプロジェクト8件をベースに以下のテーマを含むケーススタディを作成しました。  

  • 環境への配慮と強靭性:原則3は、開発の全ての段階において、インフラプロジェクトの環境への影響を考慮すべきとしています。これは、生態系、生物多様性、そして気候変動へのインフラの負の影響を軽減する手法を特定するために、環境に関する十分な分析を行うことを意味します。原則4では、気候変動により悪化する可能性がある自然災害や、近年大幅に増加しているサイバー攻撃といった人為的リスクへの強靭性の構築を推奨しています。ダルエスサラームの都市開発に関するケーススタディでは、両原則の実践例を紹介しています。

  • 包摂性:原則5は、インフラサービスへの公平なアクセスの観点から、全ての人が尊重され、安心と安全が保障される環境の中で、経済社会活動が行えるようになることを重視しています。換言すれば、インフラ投資の恩恵は、女性、先住民、人種的マイノリティや少数民族、LGBTQ、その他の不利な立場にある人々にも等しく行き渡るようになるべきものである、という視点です。例えば、途上国では女性や少女にとって、仕事や学校に行ったり、保健医療サービスを利用したりする際の唯一の移動手段が公共交通機関であることが多く、その安全性が問題となることがあります。公共交通機関での女性や少女に対する暴力(VAWG)への対策が模索される中、世界の複数の地域での経験から、例えば、テクノロジー、実効的な対応手順、そして啓蒙活動から成る包括的なアプローチの活用が効果的であると考えられており、メキシコシティのケーススタディもその有効性を示しています。
  • ガバナンス:原則6は、優れたインフラ・ガバナンスの重要性を指摘しており、これは、ライフサイクルコスト・アプローチを活用する際や、インフラプロジェクトの短期的・長期的な結果の間でバランスを取る際に、適切かつ透明な意思決定を行うためにも重要な視点であると考えられます。また、政府はインフラプロジェクトの実施に際し、それを適切に管理するリソースと能力を有していなければなりませんが、そのためには制度や規制の改善といったアプローチも重要となります。また、インフラプロジェクトにおける腐敗リスクの軽減やコミュニティ・レベルでのオーナーシップ促進の観点からも、グッドガバナンスが求められています。質の高いインフラ投資におけるグッドガバナンスの役割については、コンゴ民主共和国ヨルダンのケーススタディの中で解説されています。
  • インフラ資産の経済性の向上:原則2は、インフラ投資でのライフサイクルコスト(LCC)アプローチの活用を推奨しています。このアプローチは、インフラ資産のライフサイクルを通じ、投資の全体的なコストとベネフィットそして関連リスクを考慮することの重要性を強調しています。具体的には、インフラ資産の設計・建設にかかる初期費用に加え、運転維持管理費も計画当初から考慮されることが、インフラ投資の経済性の向上の観点から望ましいとされています。パラグアイのケーススタディが、電力セクターによるLCCアプローチの活用例を紹介しています。
  • インフラによる正のインパクトの最大化:原則1は、インフラの正のインパクトの最大化に着目し、持続可能な成長と開発の達成におけるその役割を強調しています。インフラは、持続可能な開発目標の達成に不可欠な要素であり、電力、水、運輸セクター等の改善なくしては、その目標達成は困難なものとなります。インフラの正のインパクトは、効率性の向上、コスト削減、信頼性の向上などによりインフラ投資の最適化が実現された時に最大化し、環境に配慮した強靭で包摂的な開発成果をもたらすことが期待されています。この原則を生かした現地での取組みとして、トルコラオスセネガルでの案件を紹介しています。

このように、多くの国がQII原則をインフラプロジェクトに導入することにより、持続可能で強靭かつ包摂的な成長を促されることが期待されています。 QII原則の持続可能な開発への貢献については、こちらのケーススタディをご覧ください。また、QIIパートナーシップのウェブサイトでも詳細をご覧いただけます。

 

関連項目:

日本の都市インフラ:質の高いインフラ投資の原則からの教訓

質の高いインフラ投資:永続的な回復を確かなものにするために(英語)

より良い回復を目指して:質の高いインフラ投資を学ぶオンラインコース(MOOC) (英語)

より良い回復の実現で求められる、インフラ投資の「質」

 

 


投稿者

Naomitsu Nakagawa

Infrastructure Specialist, Quality Infrastructure Investment (QII) Partnership, World Bank

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