過去数年、脆弱性と紛争の状況は世界的に悪化を続けており、それらの影響下にある国々はとりわけ貧困に苦しみ、そして現在では新型コロナウイルス感染症による打撃を受けている。 世界銀行は2020年前半に、世界の最貧困層のうち最大3分の2が脆弱性・紛争・暴力(FCV)の影響を受ける国々で暮らすことになると予測し、新型コロナウイルス感染症による危機は、その状況をさらに悪化させた。平和と包摂的かつ持続可能な開発の機会を確保することが課題である「持続可能な開発目標(SDGs)」は、このような脆弱な状況において達成することは困難だろう。
同時に、国際社会は、平和の促進だけでなく、開発援助の提供おいてその役割を果たすことが求められている。 これはまさに、世界銀行の最貧国向け基金である国際開発協会(IDA)が行っていることである。
6月に終了したIDA第18次増資 (IDA18)においては、脆弱で紛争の影響下にある状況への支援を3年間で2倍以上に増強した(102億ドルから230億ドル)。 これにより、3,800万人以上が必要な保健サービスにアクセスし、1,500万人以上の子供が予防接種を受け、1,700万人以上が社会的セーフティネットプログラムを享受した。
これは大きな進歩ではあるが、さらに多くの支援が必要だ。
新型コロナウイルス感染症の影響への対応を支援
新型コロナウイルス感染症の大流行が最も脆弱な環境におかれた人々の生命や生活を脅かすにつれ、これまでの保健面、経済面、社会面における脆弱性が顕わになり、悪化していることを、私は非常に危惧している。
「FCVの影響を受けた国々は記録的で最も深刻な景気後退を経験しており、さらに1,800~2,700万人が極度の貧困に追い込まれている。」
今年の移民や難民からの国外送金は、平均20%減少すると予想されている。 2019年における送金は、FCVの影響を受けた国への国際支援よりも多く、FCV影響下にある最も貧しいコミュニティの大多数にとって重要なライフラインとなっている。
8月末の時点で、IDAを通じた新型コロナウイルス感染症対策への支援は、FCVの影響を受けた28カ国に届き、最も脆弱な人々を支援するための社会的セーフティネットの強化に貢献している。 これらの投資は、脆弱性の原因に対応すると同時に、感染症拡大防止と国の保健システムの強化に直接働きかけ、ハイチやアフガニスタンからブルキナファソ、パプアニューギニアへの強靭性を持った回復の基盤の構築を後押しする。
パートナーシップの力
世界銀行は新型コロナウイルス感染症の対応において、幅広いパートナーと協力して、比較優位性を活用し、最大の成果を引き出している。 たとえばサヘルでは、約60億ドルの支援により、人道や平和、安全保障の組織(例えばサヘルG5およびサヘル同盟)と協力して、地域の平和と安定を支援している。この開発支援は、重要なサービスの提供と制度の強化に重点を置いている。 また、2017年のソマリアにおける深刻な食料不安を受け、5,000万ドルのプログラムを通じた赤十字国際委員会(ICRC)および国連食糧農業機関(FAO)とのパートナーシップにより、同国の76万7,000人に対して食料へのアクセスを改善し、飢饉の回避を支援した。
またIDA18は、難民や難民を受け入れるホストコミュニティへの18億5,000万ドルの投資により14カ国における35のプロジェクトを支援した。カメルーン、チャド、ニジェール、コンゴ共和国、ウガンダにおいては、各国の保健、教育、社会的セーフティネット、水と衛生などのサービス提供システムを強化している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とのパートナーシップは、難民を支援する受入国での経済的機会の創出、生計の向上、より包括的な政策の実施に必要とされる長期的な開発支援により、基礎となる人道的支援を補完する。
IDA18における革新的なアプローチは、所得が低く、最も脆弱で困難な状況下におかれた人々に雇用と経済的機会の創出を支援してきた25億ドルの民間セクター・ウィンドウ(PSW)だ。 例えば、アフガニスタンでは、8,900万ドルの官民パートナーシップによる世界銀行グループの各機関の協力により、国内の発電量が最大30%増加し、国民の電気へのアクセスが向上した。
今後の展望:FCVはIDA19の核となる
この強力な基盤は、IDA第19次増資(IDA19)の期間中(2020年7月~2023年6月)に拡大される。推定250億ドルのFCVへの支援は、さまざまな課題に対応するために調整される。これには、紛争拡大防止、危機の最中や危機後の状況下で、人的資本および主要機関を保護するための支援の維持、難民および受入コミュニティの開発の機会を創出するための支援が含まれる。
紛争防止は、今年前半に発表された初の世界銀行グループFCV戦略の下で強調され、世界銀行が開発機関として取組むための主要な柱となっている。
「紛争防止に1ドル投資するごとに、将来16ドルの節約となる。つまり、脆弱性の要因に対応することは、開発支援に向けた最良の方法の1つと言える。」
今後は、全面的な紛争に発展する前に、排除や、男女不平等をはじめとするその他の不平等、雇用やサービスへのアクセスの欠如などに起因するリスクや苦情に積極的に政府が対応できるように支援する。
また、職員配置の向上やテクノロジーの利用強化を通じて、最も困難な環境におけるプロジェクトの実装方法を適応させていく。 2017年以降、ゴマ、ジュバ、カブールで、150人以上の職員が脆弱で紛争の影響下にある環境で働いており、今後3年間でさらに150人の職員が増員される予定だ。しかし、職員の増加が全てではない。安全が確保されていない地域におけるプロジェクトの実行と監理は、非常に困難を極める場合がある。常にその地にいるとは限らない場所に目を向ける能力を強化するため、我々はシンプルで低予算のテクノロジーソリューションを活用する。世界銀行のGeo-Enabling initiative for Monitoring and Supervision (GEMS)は、例えば、顧客、現地のパートナー、およびプロジェクトチーム間の能力を構築し、シンプルなオープンソースツールを使用してジオタグ付きの現地データを即時に収集・分析する。 GEMSは現在、脆弱な環境と新型コロナウイルス感染症対応プロジェクトを中心に、40カ国以上の450を超えるプロジェクトに実装されている。
FCVの状況下で新型コロナウイルス感染症がもたらす保健と経済の課題に取組む国々を支援する中で、IDAは今までになく重要な機関となるだろう。 IDAの持つ、パートナーの人道的介入を補完する長期的な開発支援を提供する能力により、我々は最も取り残された脆弱なコミュニティを支援し、回復において国々の強靭性構築を後押しすることができる。
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