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フード・システムの健全化への投資による安全性強化に向けて

新たな感染症の60%以上が動物由来とされています。
新たな感染症の60%以上がヒト以外の動物由来とされています。写真: © Flore de Preneuf/世界銀行

世界銀行グループは先週、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらす健康と経済への影響に途上国や民間セクターが対応できるよう、過去最高の120億ドルの緊急支援パッケージを準備すると発表した。支援の大半は必然的に事後対応型として、今回の未知の脅威への対応を強化するための緊急措置に充てられるが、一部には予防措置にも使われる予定である。今後、類似の危機が発生する前に過去の経験から学び、協力態勢を強化するためには、予防措置を進めておかなければならないからだ。

感染症の根本原因のひとつとして、急速に変化する環境下での動物からヒトへの病原体感染という制御の効かないリスクが挙げられる。今回のCOVID-19に関する危機は、過去に発生したSARS、MERS、エボラ出血熱、H1N1新型インフルエンザ同様、各国が適切な措置を講じこうしたリスクを管理するための新たな機会を開くものだ。  

動物の健康、ヒトの健康、地球の健康には相互関係があり、フード・システムが数多くの疾病出現の原因を生み出している。

この分野の専門家は、家畜の不適切な管理、食品の取扱いにおける安全性の軽視、環境の劣化、野生生物生息域の減少が、人の疾病といかに結びついているかへの理解を深め、これを基に「One Health」のアプローチを提唱している。言い換えると、動物の健康、ヒトの健康、地球の健康には相互関係があり、フード・システムが数多くの疾病出現の原因を生み出している。

そのフード・システムには現在、人口と所得の増加により加速した生産や消費の急増という負担がかかっている。農業からの圧力に加え、森林破壊、土壌劣化、誤った栄養管理、生物多様性の喪失、気候変動が数十年にわたって続き、自然システムは限界に近付いている。また人の移動や貿易の拡大により、疾病の急速な広がりが加速している。結果として、主に動物由来のこうした新たな感染症は頻度、経済への影響ともに拡大している。

今こそ、フード・システムのより適正な管理に投資し安全性を高めなければならない。 

幸いなことに、ゼロからのスタートではない。世界銀行は14年前、鳥インフルエンザと人獣共通感染症に取り組み、パンデミックへの事前準備と対応のための強力なプログラム「鳥インフルエンザ抑制およびヒトへの世界的大流行への準備・対応のための世界的プログラム(GPAI)」で主導的な役割を果たした。2006年に承認された同プログラムは、鳥インフルエンザから深刻な打撃を受けた国々と、まだ被害はないものの警戒中の国々を対象とし、早期かつ効果的な疾病管理強化のために財政・技術面の支援を行った。マルチセクターにおよぶ同プログラムは、62カ国に支援を提供し、防疫措置、疾病監視、診断力強化、情報共有、広報活動、対応等を通じて、多大な犠牲をもたらすパンデミックの回避に貢献した。

鳥インフルエンザ危機から得られた重要な教訓は、特定の危機の深刻さやその地理的広がりに関わりなく、支援を要請するすべての国において予防への投資は有益である ということである。借入国と世界全体にとって、公衆衛生と経済への恩恵は極めて大きなものだった。

当時の経験から得られたもうひとつの教訓は、さらに厳しい現実を突きつけている。最後まで行動する機会がその後失われてしまったのだ。同プログラムは2006~13年に83件のプロジェクトを支援したが、2008~09年に発生した金融危機と食糧価格危機の結果、世界の注目が奪われ優先順位が下がり、予防措置への需要が縮小した。深刻なリスクが残ったことは、それ以降に続いた疾病の流行が示す通りだ。

我々の分析もまた、予防措置への投資が経済的に理にかなっていることを提示している。「ヒト、病原菌、地球:One Healthの経済学l」で我々は、低・中所得国において効果的な疾病管理のためにOne Healthシステムを構築・運営するために必要な資金は年間わずか30億ドルであり、そうしたシステムが備わっていれば、エピデミックやパンデミックを抑えることで370億ドル(年間で実質340億ドル)節約できるだろうと試算している。その他の分析では、低・中所得国における食品に由来する疾病の代償は生産性低下と医療費で推定1,100億ドルである(「求められる食の安全」)とし、未確認の薬剤耐性菌がもたらす損失は、2008年に発生した世界規模の金融危機による損失に匹敵する可能性がある(「薬剤耐性菌感染症:経済の未来への脅威」)としている。

現在、より多くの国で人々に計り知れない不安と差し迫った苦悩が広がる中、我々は知識と経験を活用し、畜産環境、食の安全性、獣医療サービス、動物の飼育環境、人獣共通感染症の感染源特定の向上等、長期的なシステムに投資する必要がある。

現在、より多くの国で人々に計り知れない不安と差し迫った苦悩が広がる中、我々は知識と経験を活用し、畜産環境、食の安全性、獣医療サービス、動物の飼育環境、人獣共通感染症の感染源特定の向上等、長期的なシステムに投資する必要がある。

エコヘルス・アライアンスのピーター・ダスザク博士が先日CNNによるインタビューで指摘した通り、「我々はパンデミックの捉え方を間違えている。パンデミックが、地球上で我々が行ってきた野生生物の売買や、人間の活動域の拡大等の結果として発生しているのだとしたら、パンデミックはそうした行為がもたらすリスクだと捉える必要がある」。つまり、パンデミックが人間の行為の産物だとしたら、上流におけるリスクを管理し、パンデミックの発生を予防するプログラムが必要となる。

世界銀行は、長期的な予防に向けて各国と協力する用意がある。  リスク削減とリスク管理に投資できるよう、特に農業と畜産の管理方法を中心に各国を支援することで、初めてフード・システムはより安全な世界を達成するためのソリューションとなり得る。

関連項目

世界銀行グループの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する支援


投稿者

Martien van Nieuwkoop

Former Global Director, Agriculture and Food Global Practice, World Bank

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