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災害に強い建築環境づくり:日本の教訓から学ぶ

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 Balint Földesi / Flickr CC


世界では週に140万人にも上る人々が都市部へ移住しており、こうした都市部の人口増加を支えるために、2050年までに約10億戸の住宅が新築されると見込まれています。従って、今日我々が建てる建物の安全性は次の世代の安全な暮らしに直接影響を及ぼすことになります。 

健全で安全かつ強靭な都市を築くためにはどのような取り組みが有効でしょうか。 

建築規制を活用した建築環境の強靭化 は最も投資対効果の高いリスク軽減策の一つと考えられており、日本でも過去のデータがその有効性を示しています。
現在の日本では包括的かつ堅固な建築規制の枠組みが確立しています。しかし、日本が建築規制整備に取り掛かった当初は、現在の低中所得国の多くと同様の条件下でした。例えば、限られた技術的知見、限られた組織的能力、低い施工精度、手頃な価格の住宅供給の高い需要など、日本も多くの課題に直面していました。

建築規制はどのように防災に有効なのでしょうか。

日本の建築環境の改善に関する取組は、火事のリスクおよび公衆衛生に関する懸念に端を発しています。当時の日本では、無秩序・無計画な都市化が進み、こうしたリスクや懸念の種となっていました。こうした事情と長い地震による被害の歴史を基に、日本は過去100年の間に段階的に建築規制を改善してきました。特に1981年には、それまでの耐震設計の考え方を大きく見直し、新耐震基準を導入しました。

新耐震基準の有効性は1995年に起こった 阪神淡路大震災 の際に試されることとなりました。地震は兵庫県南部を直撃し、周辺地域を含め、6,437人の死者を出し、およそ10万戸以上の住宅に被害を与えました。被害後の調査では、改善された建築規制により顕著な被害低減の効果が見られました。倒壊した建物のうち、新耐震基準に沿って建てられた建物は3%にとどまり、改善された建築規制の遵守により、地震の被害が限定的であったことが分かりました。

阪神淡路大震災をきっかけに、建築規制の遵守および耐震化の取組に関する社会・政治的な機運が大きく高まりました。2013年現在のデータでは、日本の住宅の約81%が耐震化されており、日本政府は2020年までに95%の住宅を耐震化することを目標にしています。

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図1:阪神淡路大震災による建物被害に関する建築年代別データ

低中所得国は日本の経験から何を学べるでしょうか

世界銀行東京防災ハブが新たに発表した報告書“「建築規制を活用した防災:災害の経験を踏まえた安全な建築環境づくり-日本の経験(Converting Disaster Experience into a Safer Built Environment: The Case of Japan)」,” では、日本がどのように段階的に建築規制を改善し、遵守するためのメカニズムを強化してきたかについて考察しています。この報告書は国土交通省 (MLIT)および世界銀行 防災グローバル・ファシリティ (GFDRR)の協力により作成され、日本の100年に渡る建築規制改革の歴史とその経験に基づいた低中所得国に向けての教訓を紹介しています。

幸いなことに、科学や技術の進歩、組織内プロセスの改善、知見の蓄積、情報技術の革新など様々な分野における進歩の成果もあり、今日の低中所得国での建築規制の改革は日本が費やした月日よりも短い期間で達成できる環境が整っています。

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図2:日本の段階的な建築規制改善・整備の変遷 [Click here for full figure]

報告書 では以下のような教訓が紹介されています。
 

 The Case of Japan
  • 教育や助言と財政的支援の統合的な支援による、建築規制遵守を効果的に促進する環境づくり日本は建築設計や建設業務に関わる専門職能に関する資格制度を設け、人材の育成に取り組んだほか、税の優遇措置や低金利融資の導入によるインセンティブの導入などを組み合わせることにより、最低限の安全性を超えた、より高い安全性を有する建物が建てられる環境づくりを行いました。
  • 民間セクターの活用による建築規制実施の能力強化地方自治体における建築確認業務の徹底を図るため、1998年以降、日本の地方自治体は民間の確認検査機関に確認業務の一部を委託できるようになりました。民間企業の参入による公平性に関するリスクを回避できるよう、政府による監督、公平性の確保、紛争処理のためのメカニズムを整備しました。
  • 広く認知されている在来工法の規制化 日本では木造住宅が一般的にみられますが、昔の木造住宅には、簡素で建築や工学の専門的知見が活用されていない安全性を欠いたものもありました。しかし日本ではこうした在来工法に関しても、研究・開発や人材育成を進めたことにより、地震に強い在来工法住宅を実現しています。政府は、建築基準法において木造建築に関する規定を定めるなど建築規制を通じた取組に加え、木造建築を専門とする資格の設置、大工など木造建築に関わる人材の育成など、日本の文化・風土に合った建築環境を安全にするための取組を行ってきました。

世界銀行ではどのようにこの課題に取り組んでいるでしょうか。

世界銀行の建築規制を活用した防災プログラム(BRRプログラム)は、GFDRRおよび東京防災ハブの支援を得て、低中所得国における建築規制及び土地利用規制の効果的な実施を通じて、建築環境の強靭化を図る支援を行っています。BRRプログラムは災害に対する強靭化に加え、気候変動適応・緩和策の推進、包括的かつユニバーサルな建築環境のアクセス、文化遺産保護などの課題に関しても、取り組んでいます。

またBRRプログラムはこうした活動を推進するためのツールや知見、様々な専門機関とのパートナーシップを有しています。これにより、建築規制実施能力評価、建築規制・法的枠組みづくり、建物品質確保、エネルギー効率の高いグリーンビルディングに関する基準や認証、建築行政官およびインフォーマル建設労働者の能力強化などを低中所得国にて支援しています。

急速に進む都市化において、建築規制の整備・実施は、健康で安全かつ強靭な都市を築く上で重要な役割を果たします。BRRプログラムは低中所得国における取組をさらに拡大していきます。

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投稿者

Keiko Sakoda

Keiko Sakoda, Disaster Risk Management Specialist, World Bank

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