新興市場や途上国経済において自然災害による損害は、電力や輸送インフラへの損害だけで毎年約180憶ドルに上ります。また、災害が家庭や企業活動に広範な混乱を及ぼすことにより、毎年3,900憶ドル以上の損害が発生しています(出典:世界銀行(2019年))。
重要インフラの信頼性や持続可能性を高め、強靱性を確保することは、国の経済安全ならびに気候変動への対応や強靱化における根幹をなします。市民の安全と繁栄を保障するために、政府は必要不可欠なライフライン・サービスの持続的提供に努めなければなりません。財務省や重要インフラを所掌する省庁、地方政府は、重要な役割を担います。災害後、重要な設備やサービスを復旧するために早急かつ費用対効果の高い方法で資金を確保する責任を負っているからです。資金調達に遅延が生じれば、重要サービスの再開が遅れ、より広範な経済的・社会的影響を及ぼします。災害リスクファイナンスは、事前に資金調達の準備をしておくことで災害後の救援や復興のために早急かつニーズに合った資金調達を可能にし、設備やサービスの早期復旧に大きく貢献します。
世界銀行はオックスフォード・インフラストラクチャー・アナリティクス(OIA)社と協力して重要インフラの災害リスクファイナンスに寄与する新ツールのプロトタイプを開発しました。世界銀行の災害リスクファイナンス・保険プログラム(DRFIP)およびOIA社(持続可能なインフラ・システムのためのオックスフォード・プログラム(仮訳)から派生した企業)は、政府がインフラ・システムにおける重大な脆弱性を特定し、重要インフラに関する財務リスクを数値化し、災害後の重要サービス復旧の迅速化に要する早急な資金調達手段を検討することを支える次世代分析やツールのプロトタイプを開発しました。この取り組みのパイロットスタディが日本―世界銀行防災共同プログラムの助成および技術支援により、東南アジア地域で行われました。
パイロットスタディでは東南アジア地域のインフラ・ネットワークへのマルチセクターおよびマルチハザードのリスク分析方法論およびプラットフォームが開発されました。同研究では、東南アジアの7つの国(ミャンマー、カンボジア、ラオス、インドネシア、フィリピン、ベトナムおよびタイ)における電力や輸送網(道路・鉄道)を含む特定セクターに焦点を当て、河川氾濫や沿岸洪水、風害(熱帯低気圧)を検証しました。研究では、世界中の既存データを収集、処理、分析し、(一定条件下での)インフラ・ネットワークの障害や損失のリスク指標を計算しました。想定されるネットワークの損失は、物理的なインフラ設備そのものへの直接的な損害(損傷する前の状態に設備を再建・修復する費用として計上)に加え、インフラ・ネットワーク全体を頼りにしている利用者(家庭・ビジネス・政府)へのサービス提供中断から発生する間接的な経済損失も含まれます。
この東南アジア地域のインフラ・リスク分析プラットフォームは、プロトタイプのウェブ・インターフェースを通じて利用することができます。プラットフォームには、インフラ・ネットワークが自然災害にさらされている度合いや災害への脆弱性を可視化するマッピング・ツールに加え、総合リスク指標を表示するダッシュボードも含まれます。ウェブ・インターフェースは次のような重要リスク指標を表示します:セクターごとのインフラ障害発生の確率、設備ごとの推計年間損害額、災害およびセクターごとの州単位での損失確率分布、設備ごとの推計年間経済損失、州単位での災害ごとの損失確率分布。
インフラ・リスク分析プラットフォームは、気候ショックに対する重要インフラの運営上、財政上の備えに資する情報を提供できます。また、重要インフラに関する重大な脆弱性を特定し、気候関連の直接的、間接的損失を予測することも可能となるため、政府やインフラ所有者、運営者による財政リスク管理・対応戦略の策定を支援します。これにより、各国の計画策定のためのより詳細な国単位のデータ収集を優先し、資金調達方法を計画、設計するための詳細分析を利用する際の指標となります。したがって、リスクに基づいた戦略立案や備えが可能となります。
研究の成果は3つの主要なイノベーションに基づきます。1つ目は、災害リスクファイナンス分析とインフラ危険分析を初めて統合し、財政リスク評価や財政リスク管理策の検証を可能にしました。2つ目は、より迅速かつ大規模、そして低コストな情報提供のために、世界の既存データがどのように活用できるかを追求しました。このことは、新興市場や途上国経済において、分析の公開性、アクセス可能性そして利用性を高めるための重要な一歩です。そして3つ目は、高性能コンピューティングの活用により、インフラネットワーク障害を非常に大きな規模で分析することが可能になりました。
今回のパイロット事業をきっかけに、世界銀行はOIA社やオックスフォード大学との協力を継続し、プラットフォームの精度を上げ、改善し、規模を拡大していくことを目指しています。。今後のステップは、モデルやツールの更なる検証や調整、経済分析方法論の強化、プラットフォームのインターフェースや機能の改善、そしてプラットフォームの対象を他のインフラや災害、地域に広げていくことです。
今回の研究成果は、強靱化のためのグローバルな取り組みに情報を提供し、貢献することが期待されます。また、本研究の方法論は拡大適用できることが示され、グローバルなインフラ・リスク分析プラットフォームへの道が開けました。今回のパイロットスタディで開発された方法論やツールは、他の世界的な取り組みに既に情報を提供しており、今後更に貢献することが期待されます。例えば、グローバル・レジリエンス・インデックス・イニシアティブでは、強靱化や強靱化のための投資を推進する目的で、リスクの定義や分析に関する共通のアプローチを収集し、構築することを目標としています。
図:東南アジア・インフラ気候リスク分析プロトタイプ・ウェブ・インターフェースのスクリーンショット
この図は、プロトタイプ・インターフェースの機能の一つであるインフラ障害の予測経済損失の範囲を示しており、インフラ設備への直接的な損害とインフラ・サービス中断(停電や通行遮断)による間接的経済損失が示されています。(プロトタイプ・ウェブ・インターフェースはこちらからアクセスできます:https://seasia.infrastructureresilience.org/。詳細情報は、こちらからご覧ください:https://github.com/GFDRR/oi-risk-vis)
画像提供:Tony Pham / Unsplash
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