沿岸地域の強靭性——ベトナム沿岸地域開発におけるリスクと機会

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人々の記憶にある限り、ベトナム中南部沿岸地域を襲った破壊的な台風の中でも最大級のものは、2017年11月4日にカインホア省を直撃した「ダムレイ」でしょう。107人の命が失われたほか、人々の生活や財産に深刻な影響を及ぼすなど、改めて自然が持つ破壊力を思い知らされました。しかし、長年にわたり自然災害を経験してきたベトナムにとってダムレイは珍しいものではなく、このブログを書いている間もベトナム中部の沿岸地域には次々と壊滅的な台風が上陸して洪水をもたらし、多くの命が犠牲になっています。

 

世界的にも極めて自然災害が多い ベトナムの沿岸地域コミュニティは頻繁に台風、高潮、洪水、海岸浸食、干ばつ、塩害を経験しています。  今後数年は、急速な都市化、経済成長、気候の影響に伴い、こうした災害リスクが増加することは避けられないでしょう。しかし、このようなリスクがありながらも、 沿岸地域の観光業、工業、養殖業などの経済セクターは活況を呈しており、ベトナムの継続的な社会経済発展を力強くけん引する可能性があります。 

ベトナム政府、世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が新たに共同作成したレポート「沿岸地域の強靭性」は、災害リスクを系統的に分析し、強靭な沿岸地域の発展を後押しするためのアクションプランを示しています。

高まる沿岸コミュニティの自然リスク

人々がさらされているリスクは重大なものです。前述のレポートは、沿岸地域に住む約1,200万人が大規模な洪水の危険にさらされており、居住地の35%以上が浸食の進む沿岸地域にあると指摘しています。安全な場所が次第に少なくなる中、新規開発は、すでに構築された都市部より洪水リスクが2倍高い地域に集中しています。

自然災害は主要な経済セクターおよび公共サービスにも著しい打撃を与えます。毎年、約8億5200万ドル(ベトナムのGDPの0.5%)および農業、養殖業、観光業、製造業に携わる31万6000人の雇用が洪水により直接的な打撃を受ける危険があります。沿岸地域の観光業は損なわれていない海岸や生態系に大きく依存していますが、沿岸地域にあるホテルの42%が浸食が起きている海岸近辺に建っているとみられています。ベトナム全体では、医療施設の約半数が洪水のハイリスク区域内にあり、ほぼすべての医療施設が洪水のハイリスク内にある省もあります。さらに ベトナムの送配電網の3分の1以上は森林地帯にあり、台風による倒木の影響を受けやすくなっています。 停電が発生すれば、製造業は途絶し、設備利用率は低下します。

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リスクにさらされている養殖池:系統的なリスク評価を可能にする高解像度の衛星データ。 データ提供:Ottinger et al 2018

すでに自然リスクは極めて大きくなっていますが、気候変動がこうしたハザードを増大するとみられています。悲観的シナリオによると、海面が30cm上昇することで都市沿岸地域のリスクは増加し、洪水の発生頻度が7%高まり、さらに450万人が影響を受ける可能性があります。気候変動が原因となり、2030年までに最大120万人が貧困に陥るかもしれないのです。

ニーズに対応しきれていないリスク管理対策

ベトナム政府による災害リスク管理はこの数十年で目覚ましく進展しましたが、こうした対策は国のニーズに応えきれていません。ハザード情報および社会経済リスクに関する情報は断片的で多くはは不完全なものです。十分な指針、規制、能力、資金がないために、リスクを踏まえた空間計画、建築基準、安全基準、インフラシステムの体系的な整備に不備が生じているのです。

例としてレポートは、全長2,659kmを超えるベトナムの海岸堤防のうち、その3分の2が規定の安全基準を満たしていないと指摘しています。多くの省では規定基準そのものですら必要な防御機能を提供するだけの強固なものではありません。自然を利用したシステムは沿岸地域の強靭性を高めることができますが、過小評価されており、ますます高まる開発と乱用の圧力にさらされています。例として、海岸地域の観光業および養殖業の発展により、海岸の砂丘は劣化し浸食が悪化しています。またベトナム政府は災害の残留リスク管理において成果を挙げていますが、リスクが増加する中、リスク関連の資金調達システム、および災害救助・対応システムの一層の改善が求められています。

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リスクにさらされているクアンナム省ヌイタン地区の海岸砂丘に建つ住宅街。 出典:Google Earth

リスクと機会のバランス

ベトナムの沿岸地域が経済的な潜在能力を安全かつ確実に実現するには、イニシアチブを実施しなくてはなりません。  対策が10年遅れれば、自然がもたらす打撃により、さらなる43億ドルの経済成長が危険にさらされる可能性があります。

レポートは沿岸地域の強靭性を高めるための具体的なアクションプランを示し、5つの戦略的介入分野を提示しています。

  1. 詳細なハザードおよびリスクデータに関するオープンアクセスのデータベースの構築、ならびに輸送、水・公衆衛生、電気などの重要インフラの資産管理システムの構築を通じた、データおよび意思決定ツールの強化。
  2. 沿岸地域の経済成長によって、洪水のハイリスク区域への新たな住宅開発など後戻りのできない危険な開発パターンに陥ることがないよう徹底した、リスクを踏まえた空間計画の実施。最新のハザードデータに基づいた安全性の高い地域での開発の誘導および災害リスクの軽減。
  3. あらゆるインフラ投資の計画、設計、維持段階にリスク情報を組み込むことによる、インフラシステムおよび公共サービスの強靭性の向上。もっとも影響を受けやすく保護が不十分な地域を始めとする海岸および河川の堤防の強化。
  4. 生態系の再生、保護、監視、管理に自然を活用した解決策(ネイチャーベースソリューション)の有効活用。関連する政策、規制枠組み、技術ガイドラインの強化も必須。
  5. 早期警報システムの改良、各地の対応能力の強化、社会的セーフティーネットの調整、包括的なリスクファイナンス戦略の実施を通じた災害への準備態勢および対応能力の向上。

このような決定的な対策を実施することで、ベトナムは気候変動および災害リスクに直面する中で将来世代の繁栄を守る機会を得ることができるのです。 

 

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