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世界経済が停滞する中、なぜ一次産品価格が高水準で推移するのか

世界経済が停滞する中、なぜ一次産品価格が高水準で推移するのか 写真: © 2010 Arne Hoel/世界銀行

世界経済の成長率は今年と来年、コロナ前5年間の平均を0.5%ポイント近く下回る見通しである。そうした中でも、2024~25年の一次産品価格は平均で2015~19年を40%近く上回る水準が続くとみられる(図1)。

例えば、エネルギーと食料の価格は落ち着くが、2015~19年の平均をそれぞれ約40%と30%上回るであろう。ベースメタルの価格は今年と来年、わずかに上昇し、2015~19年を平均で約40%上回るとみられる。

 

図1:一次産品価格の上昇と成長の鈍化

2024-25年の世界経済の成長と一次産品価格、2015-19年の平均との開き

図1:一次産品価格の上昇と成長の鈍化

出所:世界銀行.

注:世界経済の成長予測と、一次産品価格、エネルギー価格、食料価格、ベースメタル価格に関する世界銀行指数の2024-25年平均の2015-19年平均との開き。世界経済見通し2024年6月版によるGDP成長率予測。

つまり、世界では今、世界経済の成長と一次産品価格の推移が連動しないというニューノーマルが定着しつつあるとみられる。 

この動向の背景として、少なくとも4つの力が働いている。 

なおも続く世界的な石油の供給制限。2023年初頭以来、石油輸出国機構(OPEC)プラス に加盟する石油輸出国は、世界全体で石油市場への供給を大きく抑制し、需要減少予測への対応として減産を徐々に拡大・延長.している。6月下旬の時点で、OPECプラス加盟国は、世界全体の需要の約7%にあたる日量600万バレル以上の減産を実施している(図2)。さらにに、米国のシェールオイル・セクターで短期的採算性の観点から価格上昇に対する 増産が頭打ちになっていることが、原油価格の上昇を支えている。ブレント原油は、2024年初来、1バレルあたり70ドル台半ばから90ドル台前半の間で乱高下している。このパターンは来年も続くと広く予想されており、ブレント原油は1バレルあたり平均79ドルになると予測される。

 

図2:OPECプラスによる大幅減産

OPECプラスの余剰生産能力

図2:OPECプラスによる大幅減産

出所:国際エネルギー機関(IEA)、世界銀行

注:IEAによる石油市場月報に記載のOPECプラス加盟国の余剰生産能力。その他のOPECプラス加盟国は、アルジェリア、アゼルバイジャン、バーレーン、ブルネイ、コンゴ、赤道ギニア、ガボン、イラク、カザフスタン、クウェート、リビア、マレーシア、メキシコ、ナイジェリア、オマーン、南スーダン、スーダン、ベネズエラ。

 

中国の一次産品需要は、景気減速にもかかわらず、底堅く推移。世界経済の成長の鈍化は、中国景気の減速が大きな要因となっている。そして、中国の景気減速は、不動産セクターの低迷も要因となっている。2015~19年、中国は年間平均6.7%のペースで成長を続けた。ところが、2024~25年の成長率は約4.5%にとどまる見通しである。これは、コロナ関連の動向により大きな影響を受けた2020~22年を除くと、中国にとって数十年で最も低い成長率となる。中国は金属とエネルギーについては世界最大の消費国であるため、以前は、不動産関連の低迷により一次産品への需要が大幅に低下するとみられていたが、いまのところ、そうした事態にはなっていない。むしろ、インフラ投資に加え、国として電子機器や電気自動車など優先する産業の生産能力拡大を戦略的重点としていることから、工業用原材料への需要は底堅く推移している。これにより、不動産セクターから発生する一次産品需要の低迷が少なくとも部分的には相殺されている(図3)。

 

図3:中国の工業部門への貸出増加

中国の工業・不動産部門への貸出

図3:中国の工業部門への貸出増加

出所:Haver Analytics、世界銀行
注:中国の金融機関による不動産部門向け融資と中長期の工業向け融資の年間成長率

 

 

気候変動による金属需要拡大と農産物供給の混乱。気候変動との闘いは、一次産品市場の動向にとってますます大きな意味を持ちつつある。金属資源が欠かせないクリーン・エネルギー技術への投資は、世界全体で2桁台のペースで拡大している(図4)。これにより、グリーン・テクノロジーの鍵となる銅やアルミニウムなどを中心に金属生産拡大に強力なインセンティブが生じている。だが、新しい鉱山を稼働させるまでには長い時間がかかるため、当分の間、供給の逼迫が続く可能性が高く、ベースメタルの価格は比較的高い水準にとどまる可能性がある。一方、農産物市場では近年、気候変動関連の異常気象現象によりカカオとコーヒーの需給がひっ迫し、価格が記録的な水準にまで高騰している。しかも気温上昇や温度変化に伴い、植物にダメージを与える病気や災害に関連して生産量の減少がさらに広がる可能性がある。

 

図4:クリーン・エネルギーへの投資拡大

世界のクリーン・エネルギー投資

 

図4:クリーン・エネルギーへの投資拡大

 

出所:国際エネルギー機関(IEA)、世界銀行

注:各3年間の世界の総投資額を2023年の実質米ドルで表示。2023年の値は推定値。その他 = エンドユースにおける再生可能エネルギー、建築、運輸、工業部門の電化、および電池貯蔵。

高まる地政学的緊張一次産品価格は、この2年半にわたる地政学的ショックの影響もあり、高い水準で変動している。2021年に短期間で上昇した一次産品価格は、ロシアのウクライナ侵略によりエネルギー・穀物市場が不安定化したことを受け、2022年初頭に急騰した。エネルギー価格は2022年半ばにピークに達した後、大幅に下落した。ところが、OPECプラスの石油輸出国が供給を削減したため、エネルギー価格の下落は2023年半ばに止まった。その後、中東で最新の紛争が始まったことで地政学的懸念が高まり、昨年10月の価格急騰に至った。今年4月、中東情勢悪化により、原油価格は再び1バレルあたり90ドルを超え、地政学に特に敏感な金価格は歴史的高値を記録した。 

地政学的緊張は今後も、一次産品価格と世界経済の成長の両方の見通しにとって引き続き重要なリスクであり、さらなる供給ショックの可能性が高まっている(図5)。いくつかの指標によると、進行中の武力紛争の数は現在、すでに数十年で最高の水準にある。紛争の激化によりエネルギー供給が著しく損なわれると、ほかの多くの一次産品の価格が急騰するおそれがある。その場合、l世界的なインフレが勢いを取り戻しかねず、今後数カ月間に各国の中央銀行が実施するとみられる慎重な金融緩和に遅れが生じる可能性がある。 

より広い意味では、いくつもの武力紛争と地政学的緊張の激化が重なると、不確実性が高まり、消費者・企業心理が悪化し、金融市場のボラティリティが高まるおそれがある。過去の記録からは、地政学的リスクの高まりが投資低迷と成長への大きな下振れリスクと関連していることがわかる。そのため、国際社会が緊張を緩和する方法を見出し、最脆弱国を支援するための取組みを強化することが不可欠である。

 

図5:地政学的リスクの高まり

地政学的リスク指数、期間平均

 

図5:地政学的リスクの高まり

 

出所:Caldara, Dario, and Iacoviello (2021)、世界銀行

注:月平均値、最終のデータは2024年5月時点  

今のところ、一次産品価格の上昇は、一次産品輸出国にとって重要な機会を開いている。価格が上昇した今、そうした国々の多くは今後数年間に、2015~19年よりも速いペースで成長するとみられる。そのため、各国は長期的な繁栄を確保できる方法で経済を再構築する機会を得ることになる。まずは、予定外の歳入を使って財政不均衡を是正するための制度強化を図るとよいだろう。また、外貨準備を増やし、中央銀行の信頼を高めるべきでもある。

世界経済が近年の数々のショックを乗り越え、2020年代半ばを迎える中、一次産品市場と成長見通しの両方にとってのいくつかの重要な要因に変化があったようである。気象関連の災害は、より一般的になりつつある。エネルギー移行に関連する金属需要が勢いを増している。地政学的緊張は一気に高まり、和らぐ気配は見えない。こうした状況の下では、成長が鈍化する中での一次産品価格高騰が普通のことになる可能性がある。 


Philip Kenworthy

Economist in the World Bank Group’s Prospects Group

M. Ayhan Kose

Deputy Chief Economist of the World Bank Group and Director of the Prospects Group, Development Economics

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