モロッコ：強靭な建築で安全な都市づくり

モロッコの都市は、火災や違法建築物、様々な産業、感染症拡大や自然災害などによる様々なリスクにさらされています。洪水、地震、津波や干ばつなどの自然災害のみをとっても、モロッコでは毎年平均で8憶ドルの被害が発生していると推定され、モロッコの市民や彼らの生活にとって大きな脅威となっています。急速な都市化や建築物の老朽化、気候変動など他の要因もモロッコにおけるこうしたリスクを悪化させています。

したがって、モロッコの都市建築の安全性や耐久性を強化するために、包括的で効果的な土地使用計画や建築規制がより一層重要となってきます。このような規制は、都市部の住環境を改善する上で強力なツールとなり、より機能的で生産的な都市への変革に貢献すると考えられています。2015年に国連で採択され、気候変動への対応や災害リスクの低減において重要な役割を担う仙台防災枠組においても、規制能力を積極的に強化する必要性が指摘されています。

建築規制は、土地使用計画や建築におけるリスクを減らす上で、最も費用対効果の高い方法としても注目されています。リスク低減策に1米ドル投資するごとに、最大で13米ドルの節約が期待できます。

ここ数十年でモロッコは規制環境の強化に取り組み、より安全で健全、そして強靭な建築を目指してきました。世界銀行は、2016‐2021年の統合防災・強靭化プログラムでモロッコ初の国家防災戦略の策定に貢献するなど、同国を支援してきました。モロッコ政府の防災努力を支援するため、防災グローバル・ファシリティ（GFDRR）と“強靭化のための規制構築プログラム”は国の規制枠組みに関する実態評価を行い、「モロッコにおける安全な構築環境のためのリスク管理」と題する報告書がまとめられました。評価はモロッコの内務省と国土整備・都市政策・住宅・都市計画省と共同で行われ、日本―世界銀行防災共同プログラムによる支援を受けました。

公共セクターや民間セクター、学術界における100名以上のステークホルダーから得られた知見が報告書に集約され、建築や土地利用に関する法令や政策、規制等の詳細な検討を通じて国の規制枠組みにおける不足部分が特定されました。また、該当する規制当局に対し、安全基準の順守を総合的に強化するための提言が行われました。

2011年に地震リスク・マッピングが行われ、その成果が耐震性のための建築基準に組み込まれるなど、モロッコでは部分的な改善が見られますが、報告書によれば、地震に脆弱な地域に関する地域ごとの調査は完了していません。また、建物を質や健全性、改修の必要性ごとに分類する都市開発リスクに関する全国のデータベースもありません。さらに、様々な都市開発手法や他の建築方法が引き起こす建物の火災リスクの分析も行われていません。

未来に向けて

報告書では、建築規制枠組みを強化するための戦略的行動計画を策定し、国の防災戦略の中心に据えるよう、モロッコ政府に対する提言がなされました。行動計画は次の分野での改善を目指します：（1）重要な建築関連法規、（2）公的機関間および公共・民間ステークホルダー間の調整、そして（3）自治体を始めとする地元行政における建築規制などのガバナンス枠組み。

計画には、リスク低減に有効な費用対効果の高いツールの開発も含まれます。主に土地利用計画や建設におけるツールが想定され、例えば、危険区域を判別できるよう各地域の地図を増やしていくことが挙げられます。そのためには、土地利用地図の作製作業の加速、洪水危険地域の地図集の作製、アガディール地域など地震に脆弱な地域における土地利用の細区分を早急に実施することなどが必要となります。

モロッコ政府は事態の深刻さを重く受け止め、中央および地方レベルにおいて規制枠組みの不足に対応していく考えです。内務省防災局のアブダラ・ナシフ暫定局長は、災害への経済及び人命の脆弱性を下げるため、規制環境強化に注力していくと直近で述べています。

既存の融資や技術支援プログラムを土台に、世界銀行は今後もその動員力を利用して多方面のステークホルダーを集め、最先端の国際ベストプラクティスを共有すると共に、モロッコ政府に対し法令や規則に関する提案を行って参ります。

関連項目

中東・北アフリカ地域における世界銀行の活動（英語）