世界のどこにおいても、山がちな地形での運転は困難です。土地が直線道路を許さないため、危険な地形を通行するには曲がりくねった山道を進むしかありません。このような道路は維持管理が難しく、恒常的な損傷を受けます。人里離れた渓谷などに道路がある場合はなおさらです。タジキスタンは国土の93パーセントが山に覆われ、夏はとても暑く冬は非常に寒い半乾燥・大陸性気候であるため、こうした傾向が特に顕著です。タジキスタンの道路も例外ではなく恒常的に劣化しており、洪水や泥流、落石、地すべり、雪崩や地震などの危険にさらされています。
自然災害で道路が損傷すると、被害はインフラへの損害にとどまりません。尊い命が奪われる可能性があり、早急な緊急対応や復興が必要となります。また、タジキスタンのように迂回路が存在しない、もしくは実質的にない場合、道路の通行止めにより運転が困難となり、貿易も阻まれます。道路封鎖でコミュニティは重要なサービスや市場から切り離され、収入につながる経済活動や社会・保健・教育サービスを受けることができなくなります。山岳地帯に特有の高リスク環境では、連続的で恒常的な災害によりリスクはさらに高まります。
2015年7月に、洪水や泥流などの一連の異常気象災害により、タジキスタンで最も山がちで人里離れた地域、ゴルノ・バダフシャン自治州(GBAO)において複数の橋が破壊されました。これにより重要な輸送回廊が遮断され、集落が孤立しました。重要インフラの自然災害に対する強靭性強化プロジェクトを通じ、世界銀行はタジキスタンの交通省を支援し、17本の橋梁を建て直しています。頂上が標高7000メートルを超えるパミール山脈に位置するこれらの橋梁は、今年中にも通行が再開する予定です。いずれも「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」の理念に基づき、前よりも強靭に再建されています。
しかし、損壊した橋梁の再建築や補強だけでは不十分です。道路関連の主な危険事象や、リスク低減のためにできること、最も費用対効果の高い対策などに関し、交通省や地方の道路管理当局、道路利用者が理解を深める必要があります。そのために、世界銀行および防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)は、報告書「主要輸送回廊における災害による経済的影響評価」を本年、発表しました。報告書は、日本―世界銀行防災共同プログラムの支援を受け、作成されました。
新型コロナウイルスによる移動制限にもかかわらず、評価チームは2020年に2,000キロ以上もの道路を点検し、自然災害の被害を非常に受けやすい地点を330ヵ所近く特定し、詳細な確認を行いました。さらに、地方当局が有するデータや、衛星データ、地図、報告書や統計の調査が行われ、地元のステークホルダーや関連省庁・部署、地方の道路管理組織に対する意見聴取も行われました。特定された危険個所がさらされている災害の内訳は、泥流が36パーセント、雪崩が31パーセント、落石が13パーセント、洪水が10パーセント、地すべりが8パーセント、そして浸食が3パーセントでした。
さらには、タジキスタンは気候変動の影響を強く受けると考えられ、気温上昇や豪雨、干ばつの増加が予測されています。大雨により泥流や洪水の頻度が上がる可能性が高くなります。また、降雪が激化し、さらには温暖な気候が続く場合には、雪崩が増える危険もあります。気温が氷点下となる季節の到来が遅くなり、雪解けの季節が早まることにより、斜面が不安定となり、地すべりや落石の危険が増します。長期的には、山の永久凍土の融解が道路輸送インフラへの深刻な脅威となり得ます。異常気象が増えれば道路の舗装が劣化し、橋梁の土台が弱まり、既存の排水設備に過度な負荷がかかることにより、道路網への損傷が加速します。
こうした災害への道路の強靭性を高めるため、報告書では様々な対策が提案されています。例えばスノーシェッドや雪崩予防柵、擁壁、ポケット式落石防止網、覆式落石防止網、土石流防止柵などの設置や、排水路の拡大や橋梁の補強、道路の線形改良、脆弱な素材の交換、道路の底上げ、地表水排除工などの対策が有効です。しかしながら、2000キロ以上の主要道路を強靭化するための投資は高額となり、4憶ドルを少し超えるほどの高額になると推定されます。道路強靭化のための投資計画案のうち、どの計画案が財政的に理にかなうか、タジキスタン政府が適切な判断を行えるよう、投資がもたらす社会的・経済的利益の評価を、評価チームが実施しました。
公式統計や400世帯に対し実施したアンケート調査、15名の重要情報提供者への意見聴取により、道路災害によって毎年約4500万ドルの経済損失が発生していることが明らかになりました。これはタジキスタンのGDPの0.5パーセントに相当する額ですが、今後10年間で年8000万ドルまで上昇することが予測されています。危険の多い山岳地帯では、経済損失の3分の1が、地域が公共サービスや生計手段から断絶されることに起因します。費用対効果の評価も行われ、こうした損失をなくすことによる利益と、一連の道路投資計画の費用が比較されました。それにより、一連の道路投資計画の全てを実施することは経済的観点から困難であるものの、特定の道路区間において選択的に対策を講じることは経済的に理にかなっていることが明らかになりました。
提案された強靭化のための投資計画は、いずれも物理的なインフラに関するものであり、大規模の工事が必要なため非常に高額となるものも含まれます。例えば、提案された65個のスノーシェッドは1個当たり平均400万ドルのコストがかかり、基本的に(重要ではあるが)とても短い道路区間(平均175メートル)のみを保護します。交通量や災害の発生が少ない道路においては、こうした投資の費用対効果はどうしても低くなります。このような場合は、インフラへの投資によらない対策のほうが経済的に理にかなう可能性があります。例えば雪崩に関しては、災害監視・予測を強化し、危険性が高まる時期には一時的に道路を封鎖するなどの対策が考えられます。
最終的には、タジキスタン政府が優先して追求すべき道路強靭化対策の判断を行いますが、報告書では、捜索救助能力の向上を含む災害への備え及び緊急対応の改善を継続することも提言しています。同様に、災害が発生するサインを早期にキャッチし、道路利用者や危険にさらされている地域、初期対応者に備えを促すための早期警報システムへの投資も重要です。こうした制度は、より費用対効果が高く、関係者が適時に適切な場所にいることを可能にし、災害への反応時間を減らします。そうすることで、一番大事な目標、すなわち人の命を守ることにつながります。
報告書のダウンロード(英語)
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