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世界銀行による100都市での自然を活用した解決策(NBS)の推進

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世界銀行による100都市での自然を活用した解決策(NBS)の推進 ケニアのモンバサにある都市公園。公園内の樹木の樹冠は都市に冷却効果をもたらしています。 写真提供者: 世界銀行

世界の都市は、洪水猛暑といった、そこで暮らす人々の命や生計を脅かす気候リスクにますますさらされています。たとえばインドネシアのマナド市では、2016年の豪雨により発生した洪水による経済的損失が1,300万ドルを超え、こうした洪水による経済的損失は2055年には年間で約2,000万ドルに達すると予測されています。またケニアのモンバサでは、年間の高温による熱ストレス日数が2050年までに3倍に増えると見込まれています。

こうした課題に対応するための手段として注目されているのが、「自然を活用した解決策(NBS)」です。NBSは、都市環境や生物多様性の向上を図りながら、気候リスクへの対応を目指すアプローチです。都市の森林湿地多機能型の公園などは、洪水の緩和や都市の気温上昇の抑制に役立つだけでなく、より健康的で気候リスクに対して強靭な都市づくりにも貢献します。また多くの場合、こうしたNBSはダム、貯水池、排水パイプといった従来の人工的なグレーインフラに比べて費用対効果が高いという利点もあります。

世界銀行は、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の取り組みの一環として、「自然を活用した解決策による気候レジリエンスのためのグローバル・プログラム」を通じ、各国・各地域社会と連携しながらNBSを都市の政策や計画に組み込む支援を進めています。

これまでの成果

GFDRRは、NBSのアプローチによって都市や沿岸地域のレジリエンスを高めるための投資機会を特定する革新的なツール「NBS Opportunity Scan(NBS機会スキャン:NBSOS)」を開発しました。このツールは地理空間データを活用することで、世界中のどのような都市地域や沿岸地域であっても、わずか6週間で気候強靭化の効果が最大となるNBSの種類と適用場所を特定することができます。

NBSOSは、日本政府ご支援のもと、世界銀行GFDRRの東京防災(DRM)ハブが技術支援をする日本−世界銀行 防災共同プログラムの支援を受けています。

これまでにNBSOSは、100都市および40カ国にまたがる沿岸地域5,000キロで活用されてきました。その成果は、NBSを含むプロジェクトに対する推定18億ドル規模の資金提供に寄与しています。

特筆すべき点として、2023年と2024年に承認された、世界銀行の都市または沿岸地域向けのNBSプロジェクト関連融資案件40件のうち11件(約28%)は、NBSOSを活用してその投資候補が特定されました。

プロジェクトチームリーダーを対象とした最近の調査では、このツールの実践的な価値が高く評価されました。回答者のうち5人中の4人が、NBSOSがクライアントや関係者の意識醸成や初期段階の議論に有効だったと答えました。同様に5人中の4人の回答者が、プロジェクト準備段階でNBS投資の種類や場所を選定する際に、NBSOSを活用したと回答しています。さらに3分の2以上の回答者が、NBSOSによる分析結果を事前の実現可能性調査に活用し、5人中の2人が、プロジェクトの設計レビューや継続的支援におけるNBSOSの有用性を指摘しています。

 

現場での実質的な成果の創出

インドネシアでは、NBSOSが都市部の洪水対策の主要な計画づくりに貢献しています。「インドネシア:国家都市レジリエンスプロジェクト」(総額4億ドル)は、従来型インフラとNBSを組み合わせることで、バンジャルマシン、ビマ、マナド、メダン、スマランなどの都市における雨水管理を強化しています。プロジェクト設計の初期段階からNBSOSを活用することで、本プロジェクト・チームは既存の洪水対策インフラを見直し、より包括的な都市洪水レジリエンスの行動計画を策定することが可能になりました。

たとえばマナド市では、下図に示されているように、水の貯留能力を高めるため、緑のオープンスペースやバイオリテンション区域、公園が導入されています。緑の回廊や都市内森林は、都市部の温度を下げる役割を果たし、河川沿いの氾濫原を保護・拡張することで、洪水リスクの低減と同時に地域住民の憩いの場としての機能も果たしています。

Image インドネシアのNBSOSから抜粋したこの図は、マナド市において洪水と熱波の軽減に最も効果的なNBSの種類と立地の候補を示しています。 図表提供者:世界銀行

 

ケニアのモンバサでは、NBSOSが洪水および猛暑の緩和に向けた取り組みを支援しています。世界銀行は、GFDRR、PROBLUE都市気候金融ギャップ基金の支援を受けたレジリエンスプログラムの一環として、ケニア政府と連携しています。本プログラムの初期段階において、NBSOSは排水機能の向上、都市の気温低下、そしてレクリエーションの機会創出といった多面的な効果につながる投資機会を特定しました。具体的には、バイオリテンション区域、緑の回廊、都市内森林、緑のオープンスペースの整備のための投資が挙げられます。加えてNBSOSは、高潮の緩衝機能をはじめ、漁業や観光、炭素の貯留といった幅広い効果をもたらす、マングローブの再生や海岸保護といった沿岸レジリエンス投資機会も特定しました。さらにNBSOSは、モンバサ市当局との対話を促進し、事前の実現可能性調査の基盤構築にも活用されました。

Image ケニアのモンバサで降雨後の洪水の様子。 写真提供者: 世界銀行

 

開発中のツール

NBSOSは、PROBLUE、日本政府、欧州宇宙機関(ESA)、およびNBS Investの支援を受けながら、継続的な進化を遂げています。併せて提供されている『都市のレジリエンスのための自然を活用した解決策カタログ』は、ユーザーが最も効果的なNBS施策を選定する際の指針として活用されています。最近の改良点として、提案された施策が生態系の連結性にどのように寄与するかを評価し、都市におけるNBSの生物多様性上の効果を見積もるためのモジュールが新たに追加されました。さらに、ESAおよびビル&メリンダ・ゲイツ財団との連携のもと、開発パートナーや人道支援機関による本ツールの試行的利用も実施されています。

NBSOSのような革新的なツールの活用と、グローバルなパートナーシップの強化を通じて、世界銀行は自然との共生を図りながら世界中の地域社会に恩恵をもたらす、強靭かつ持続可能な都市開発の実現に取り組んでいます。


Sally Judson

Disaster Risk Management and Evaluation Specialist, GFDRR

Brenden Jongman

Senior Disaster Risk Management Specialist, GFDRR

Miyu Yamashita

Disaster Risk Management (DRM) consultant

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