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食料価格危機対策の4つの道筋

Wheat-based roti for sale in a market in Lahore, Pakistan, in 2019. Photo credit: Flore de Preneuf/ World Bank Wheat-based roti for sale in a market in Lahore, Pakistan, in 2019. Photo credit: Flore de Preneuf/ World Bank

ウクライナでの戦争が凄惨を極め計り知れない苦難をもたらす中、その影響は広く各国に及んでいる。コロナ危機は途上国を中心に大きな痛手となったが、危機からの回復を図ろうとする世界を今、戦争の影響が打ちのめしている。 特に深刻なのは食料価格危機で、小麦をはじめとする主食について、手頃な価格での供給が続くかどうかが問題になりつつある。

今回の戦争が食料システムに与えているダメージを見くびることはできない。2年間にわたるコロナ危機と、気候変動、通貨下落、財政状況の悪化により、世界はそれでなくても不安定になっていた。ウクライナとロシアは世界の小麦年間売上高の4分の1以上を占める。そして戦争により影響を受けるのは小麦だけでない。 両国から輸出される大麦、メイズ(白トウモロコシ)、食用油などの価格も大幅に上昇しているのだ。世界と各国内の食料価格は戦争前も既に過去最高水準に近かったが、肥料価格が大幅に上昇しているため、来季の収穫に大きな注目が集まっている。

「食料価格の乱高下を抑え、この新たな危機から抜け出せるかどうかは、各国の政策と世界的な協力にかかっている」

こうした動向は確かに憂慮すべきではあるが、うろたえている場合ではない。意外な事実を紹介しよう。世界の三大穀物である米、小麦、メイズの世界の備蓄量は歴史的な高水準が続いている。小麦は戦争により最も影響を受ける一次産品だが、備蓄量は2007~08年の食料価格危機の際のレベルをはるかに上回っている。ロシアとウクライナからの小麦輸出量の約4分の3は、戦争が始まる前にすでに引き渡されていたとする試算もある。   

食料価格の乱高下を抑え、この新たな危機から抜け出せるかどうかは、各国の政策と世界的な協力にかかっている。 残念ながら、我々が食料危機に直面するのは今回が初めてではない。

2007~08年の世界食料危機はそもそも干ばつと原油価格高騰の結果だったが、そこから得られた教訓が思い出される。食料生産量上位国が、国内の食料供給への懸念から輸出を制限したことで、価格が一層高騰し、子供を中心に栄養不良が悪化した。

同じ間違いを犯してはならない。これとは対照的に、コロナ危機が始まった際、都市封鎖により港湾、貨物輸送、労働者の移動が制限されても、各国は食料貿易の流れを途絶えさせなかった。この協調的な動きのおかげで、世界の食料サプライチェーンの混乱が限定的で済み、状況のさらなる悪化が回避され、ひいてはすべての国のためになった。

我々はそうしたエビデンスや経験を指針とし、喫緊の危機対応と、人々をショックから守るより強靭な食料システム構築に向けた今後の長く厳しい取組みの間でバランスをとる必要がある。各国と国際社会には、以下の4つが優先課題となるだろう。 

第一に、食料貿易を途絶えさせないこと。経験から学んだ通り、各国と国際機関は今回も、食料供給が滞ることのないよう、強い決意の下で一丸となって対応する必要がある。G7は、全ての国々に対し、食料・農業市場を閉鎖しないよう、また輸出に対する不当な制約に注意するよう呼びかけている。

第二に、セーフティネットを整備して消費者と脆弱世帯を支援すること。消費者への打撃を和らげるための社会的保護プログラムの維持・拡大が不可欠である。食料を確保できるか否かだけでなく、手頃な価格で手に入るかどうかも懸念されている。特に低・中所得国では、所得の中で、食料にかかる支出の占める割合が高所得国よりも高い傾向にあるのでなおさらだ。多くの人々が、戦争以前から既に、所得減少と食料価格高騰のために支出を切り詰めていた。資源に制約のある国の政府は、最脆弱世帯への支援を最優先とすべきである。

第三に、農家を支援すること。現在、世界的な食料備蓄は十分だが、来季の収穫を確保するために、食料生産者が肥料など農業投入財の価格高騰と品不足に対応できるよう、支援する必要がある。投入財の貿易障壁撤廃、肥料の有効活用の促進、より効果的な農家支援に向けた公共政策と歳出の見直しはいずれも、6カ月後に十分な食料生産を確保することにつながる。 また、この分野の研究開発への投資拡大も求められている。初期段階にある研究を加速させ、合成肥料よりも化石燃料への依存度の低い生物肥料を導入すれば、農家にとって持続可能な選択肢を増やすことになる。

そして第四にして最も重要な点は、喫緊のニーズを満たしつつも、より強靭で食料と栄養の永続的安全保障を達成できる食料システムへの転換に取り組むことだ。 食料システムは今回の戦争前から既にいくつもの危機のための不安定化していた。経済的ショック、複数の紛争、アフリカ東部での歴史的干ばつ、サバクトビバッタの極端な大発生の結果、多くの国で深刻な食料不安が高まっていた。

世界銀行は、過去2年間だけで食料安全保障措置として主に農業と社会分野に対し、それ以前の3年間における年間平均120億ドルを大きく上回る年間約170億ドルもの大規模な支援を提供した。 また、各国が食料危機の発生に早めに対応できるよう、国際開発協会(IDA)危機対応ウィンドウの早期対応資金メカニズムから資金を動員し、人道パートナーと協力して食料不安をモニターするなどの支援を続けている。  

「食料システムを転換すれば、グリーンで強靱かつ包摂的な開発の基礎として、人々の健康や経済と地球の健全性を促進できる」   

困難でもあきらめず、途上国が回復の軌道に戻れるよう支援することが不可欠である。長期的には、政府、民間企業、国際パートナーが協力して、気候、紛争、経済のリスクが高まる中でも食料と栄養の安全保障を確保できるよう、より生産性と資源効率が高く、多様かつ栄養価の高い生産システムを実現する必要がある。これは、我々の気候変動対策の5つの優先分野のひとつである。

公共支出の対象の絞り込み、民間資金の動員、イノベーションと研究開発への投資が、「より少ない資源でより大きな成果を上げる」ための鍵となる。人口増加に備え、より少ない水と肥料で、より多様かつ栄養価の高い食料を生産する一方で、土地利用の変更を制限し、温室効果ガスの排出を抑制するのだ。

食料システムを転換すれば、グリーンで強靱かつ包摂的な開発の基礎として、人々の健康や経済と地球の健全性を促進できる。 

関連項目

World Bank: Agriculture & Food

The World Bank Group and Ukraine

Country Page: Ukraine


投稿者

マリ・エルカ・ パンゲストゥ

世界銀行専務理事(開発政策・パートナーシップ)

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